本研究は、熟練ガイドなどの対話熟練者の対話戦略をモデル化するため、実談話データに基づき、談話全体の目的の遂行を、単に行為の連鎖としてではなく、話者間の基盤化過程の積み重ねであると捉え、構造化し、対話システム等に応用可能な計算機モデルとして扱えるように、基盤化の強度や、ネットワーク間の依存関係を記述可能な、基盤化ネットワークの拡張手法を整備することを目的としている。 前年度(平成25年度)までは、ドメイン(対話のモデル化の対象)を観光案内対話、特にユーザ(観光客)が現地から遠隔地にいるガイドと現地の状況を共有しながら問題を特定し、ガイドは、現地の状況を推測しながらユーザの要求に対応していくような対話をモデル化した。これに対して、今年度(平成26年度)は、基盤化モデルの汎用性を確認するために、対象を多人数の話し合い会話に変え、話し合いの参加者がいかに基盤化を進めながら話し合いを進めていくかを、男女6名による大学生の話し合いを対象に、ラベルの拡張、付与を行った。発話の理解は、それに対する応答だけでなく、相槌などの承認発話によって示され、話し手、聞き手間の基盤化がなされる。また、聞き手の頷きも理解の証拠としてラベルし(相槌≒複数回の頷き>一回の頷きで理解の強度を定義)、基盤化過程を詳細に分析した。その結果、話し手の発話が参加者の誰かによって承認され基盤化が進んでいる過程が明らかとなった反面、特に、談話のまとまりであるところの貢献トピックの境界が明確なフェーズ(議論進行が管理されているフェーズ)とそうでないフェーズ(雑談のように次々と意見が交わされるフェーズ)があり、ガイド対話に比べて談話の構造化に関する問題も浮き彫りとなった。ゆえに、ファシリテータ役が存在し、議論進行が管理されている話し合いの方が、議論構造(基盤化ネットワーク)は単純化される傾向にあった。
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