研究課題/領域番号 |
24520457
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
在間 進 東京外国語大学, その他部局等, 名誉教授 (30117709)
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研究分担者 |
成田 節 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (50180542)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ドイツ |
研究概要 |
まず,本研究プロジェクトの基盤である使用頻度分析に関する最新の研究状況のみならず,「自然科学」としての研究を目指す生成文法の研究状況に関しても情報収集を行なった。その結果,ドイツ語研究にとって可能なのは,現在,「可能な限り妥当な記述」(説明的妥当性)を追求することのみであり,したがって,研究成果を「単なる主張」に終わらせないための,「研究成果の評価」を含む方法論的枠組みの構築が必要であるとの結論を得た。 次に,形(形式)と意味の対応については,コーパスからの大量データを活用した頻度分析の必要性をより明確にすると共に,「頻度には,言語使用の根底に想定しうる文法体系が傾向として反映される」という仮説に基づく実証的分析を行なった。分析対象の一つは,受動文形成である。受動文形成に関する諸要因(たとえば「有意義な影響を生じさせうる他動詞性」など)と形(形式)上の頻度的傾向との並行性を実証するとともに,同一動詞の目的語の中にも,受動文の主題になる傾向の強いものと弱いものとがあるなど,言語使用上の新たな知見も得た。もう一つは,出現・消滅動詞と共に現れる前置詞句の格支配である。この分析を通して,形(形式)の使い分けには言語習慣に基づくと考えるべきものもあるため,形(形式)の使用に関わる意味特性の抽出に際しては,当該の意味特性がドイツ語全体の記述という観点から有意義であるかどうかの検証が(語学教育への応用という実用的観点も含め)必要であるとの知見を得た。 なお,主文とdass文とzu不定詞句のそれぞれについて語句結合の頻度分析を行ない,3者の分析結果が基本的に同一になること,また,頻度に基づく分析結果と母語話者の内省に基づく分析結果との間に一定の並行関係が成り立つことも(暫定的な仮説としてではあるが)実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度の研究計画は,本研究プロジェクトの計画遂行のための基盤を理論的および実践的に検討し,確実なものにすることであった。 まず,本研究プロジェクトの構想自体の,理論言語学からの知見に基づく恒常的な検証が不可欠であるが,使用頻度分析に関する最新の研究状況のみならず,自然科学的側面を重視する生成文法の研究状況に関しても情報収集を行なうことができた。その結果,【研究実績の概要】で述べたような結論を得た。 次に,具体的な事例分析であるが,受動文形成の諸要因および出現消滅動詞における格の出現頻度の分析を行なった。前者に関しては,【研究実績の概要】で述べたように,受動文形成に関する諸要因(たとえば「有意義な影響を生じさせうる他動詞性」など)と形(形式)上の頻度との並行性を実証するとともに,従来問題化されることのなかった受動文形成の新たな要因(たとえば,同一動詞が意味的カテゴリーの異なる4格目的語と結合する場合,これらの意味的カテゴリーと受動文形成頻度との関係など)についても有意義な分析を行なうことができた。後者に関しては,【研究実績の概要】で述べたように,形(形式)の使い分けには言語習慣に基づくと考えるべきものがあることを実証するとともに,形(形式)の使用に関わる意味特性の抽出に際しては,当該の意味特性がドイツ語全体の記述という観点から有意義であるかどうかの検証が(語学教育への応用という実用的観点も含め)必要であるなど,言語分析を「分析のための分析」に終わらさせないための重要な知見を得ることができた。 以上のように,2012年度の,「本研究プロジェクトの計画遂行のための基盤を理論的かつ実践的に検討し,確実なものにする」という研究計画は,おおむね順調に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
まず,本年度の前半は,前年度の「出現消滅動詞」および「受動文形成」を中心とした分析結果を ― 特に後者(「受動文形成」)の場合は収集データの拡充も含め ― 精密化し,かつ,コーパスからの大量データを活用した使用頻度分析の理論的・技術的方法論のレベルアップも図る。 本年度の後半は,本年度の前半の成果を活かしつつ,「使用実態およびその根底に想定しうる規則体系」を使用頻度の観点から分析・記述する研究モデルを確立するための「さらなる分析」を行なう。 具体的には,自立格目的語および前置詞格目的語が競合して現れる「単一文的語句結合」に関して,たとえばstreichelnなどの動詞を分析対象とし,それらの使用実態の記述とそこに見い出される意味的特性(規則性)の抽出を行なう。また,zu不定詞句とdass文が競合して現れる「複合文的語句結合」に関しては,たとえばbehaupten,beschliessenなどの動詞を分析対象とし,それらの使用実態の記述とそこに見いだされる意味的特性(規則性)の抽出を行なう。前者の場合も,後者の場合も,コーパスを用いた研究成果がすでに多くあるため,それらの整理に一定の時間が必要になると考えられる。 「単一文的語句結合」,「複合文的語句結合」,そしてそれらの情報構造的転換である「受動文形成」は,最終年度のまとめにおいて三つの軸になるものである。 なお,ドイツ語という個別言語を分析対象とする本研究プロジェクトにとって,コーパス言語学のみならず,言語学一般における研究成果からの恒常的な検証が不可欠である。そのため,理論言語学一般に関する幅広い情報収集も同時に行なう。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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