研究課題/領域番号 |
24520457
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
在間 進 東京外国語大学, その他部局等, 名誉教授 (30117709)
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研究分担者 |
成田 節 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (50180542)
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キーワード | 国際研究者交流 / ドイツ語学 / 言語学 / ドイツ語教育 |
研究概要 |
第一に、本研究の「理論的基盤」に関しては、個別言語としてのドイツ語を分析対象とする場合(すなわち「外在化」された言語を分析対象とする場合)、「真偽」が問題にならないという立場を確かなものにした(チョムスキー『言語基礎論』(福井直樹編訳、2012年)など参照)。 第二に、コーパス・データを活用した「頻度に基づく分析モデル」の確立に関しては、昨年度の分析結果(「出現・消滅動詞」における前置詞の与格・対格の出現)の整理および補充を行うとともに、被動作者とその身体部位を結合語句とする動詞(たとえばstreicheln)の分析も開始した。これらの場合、動詞との語句結合が問題になるが、その際の、データ処理の方法論的側面(たとえば調査事項など)に関しても、より工夫を重ねた。 第三に、「文法体系と頻度」に関しては、受動文における能動文主語の、von-前置詞句による表示・非表示の頻度分析に基づき、サンプル調査によっては得られない特性が見出されることを確認した。すなわちドイツ語の使用実態を正しく反映した文法記述を行うためには、頻度的観点からの、動詞の個別的かつ具体的な分析が必要であるとの結論に達した。 第四に、新たな分析対象に加えた「複合文的語句結合」(zu不定詞句とdass文の競合関係などの問題)に関しては、動詞の意味的特性に基づいて明確に使い分けられているわけではなく、語用論的な要因が深く絡んでいるとの知見を得た。 今年度の研究実績を一言で簡単にまとめると、「言語理論の新たな知見(分析理論)および新たな技術(コーパス分析)に基づき、言語使用上の実在性の検証を含む(言語教育上の)応用的有用性という観点を取り入れた、ドイツ語の使用実態を軸とした体系的研究」への有益な成果を得ることができたということになろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の、本研究の「理論的基盤」について言えば、最近の生物言語学、生成文法の各流派の流れを見る限り、個別言語としてのドイツ語を研究する場合、本研究のように、実際の言語使用に重点を置く研究は十分に現代的価値があることがさらに確認できた。また、分析結果を「有用性」という言語外の視点から評価する枠組みの導入は、ドイツ語学の今後の発展に大いに貢献しうるであろう。 第二の、コーパス・データを活用した「頻度に基づく分析モデル」作成について言えば、理論研究がある一定の水準に達し、また、IT技術によりコーパスが構築され、検索技術も進歩した現在、言語の「使用実態の頻度分析」は、個別言語研究の在り方として必然的に辿り着く結果と言える。ただし、多くの「成果」と言われるものは、機械的に処理できる範囲に留まり、人間の判断が必要とされる面では未だ大きな問題を抱えている。本研究でも、頻度に基づく分析事例を当初描いていたほど積み重ねることができなかった。たしかにコーパスによって、「ふつうのドイツ語母語話者がより多く使用する言語表現」のデータは、十分過ぎる程十分に収集できるようになったが、事例の最終的確認は、分析者自身が行わねばならず、この点が作業進捗にとって大きな負担になっている。 第三の、「文法体系と頻度」の対応分析と、第四の、「複合文的語句結合」の分析について言えば、共に、一般的に想定される以上に動詞ごとの特殊性が認められ、分析方法の再検討が必要になっている。特に、後者に関しては、動詞の意味的特性のみならず、語用論的および文体的要因が深く絡んでおり、新たな分析視点が不可欠であろう。 以上のように、未解決の問題もいくつかあるが、【研究実績の概要】で述べたように、本研究の目的は、「本来のあるべき姿」で徐々に達成されつつあると言える。
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今後の研究の推進方策 |
第一の「理論的基盤」に関しては、コーパスを活用した使用頻度調査に基づく「言語使用の多様化分析」やコーパス・データの「実用的応用」に関心が向き出しているため、この分野での研究状況に関して積極的に情報収集を行う。 第二の「頻度に基づく分析モデル」(主に動詞の語句結合)に関しては、語句結合の、頻度的観点からの合理的な分析手法の確立をさらに図る。今なお最大の問題は、当該語句結合にとって「有意義な」語句と、当該語句結合に限られない「一般的な」語句の区別、そしてそれらの結合パターンの頻度的抽出である(頻度は程度問題であるため、どこで区切りを入れるかが人為的判断になる)。現在は、zu不定詞句の事例に基づき「有意義な」語句を抽出し、dass文の事例に基づき語句結合パターンを抽出する手法を試行的に実践しているが、この手法の有効性の検証を継続する。なお、動詞の統語的意味的タイプによって語句結合の在り方も異なりうるため、分析に際してはこの点にも十分に注意を払う。 第三の「文法体系と頻度」および第四の「複合文的語句結合」に関しては、研究者の経験などに基づくサンプル事例分析では十分な結果が得られないことがすでに明らかになっている。個別言語の文法体系は、当然のことながら、実際の個別的具体的事例から「抽出」されるものである。したがって、データが不十分ならば、その結論も不十分になる。しかし、コーパスによって大量のデータが収集できるようになった現在、「大量かつ網羅的なデータを活用し、個別的語彙の、頻度を軸にした分析結果を積み重ね、ドイツ語の使用実態およびその根底に想定しうる文法体系の記述」も現実的な目標になりつつある。最終年度の今年は、受動文に焦点を合わせ、その研究モデルを示す予定である。
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