研究課題/領域番号 |
24520460
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
森賀 一惠 富山大学, 人文学部, 教授 (60243094)
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キーワード | 訓詁学 / 羣經音辨 / 經典釋文 / 多音字 / 音注 |
研究概要 |
この研究課題は、従来、主に音韻学的見地から研究対象とされてきた多音字の音注について訓詁学的観点からこ新たに見直すとともに、やはり従来看過されてきた音注の史的変遷についても明らかにすることを目指すものである。多音字の音注は、その字の発音を示すことにより意味を示すために付されることが多い。『經典釋文』は、隋唐までに蓄積されてきた多音字の音義関係のデータを集大成したものだが、經注での出現順に字を配列しているため、字ごとの音と義の対応がわかりにくいという難点があった。そこで、字ごとに多音字の音義の関係を整理した資料が現れたが、その中の代表的なものが『羣經音辨』である。これまでも、訓詁学的観点からの研究がなかったわけではないが、その多くは、『羣經音辨』やそれを承けた『經史動静字音』の解釈をそのまま鵜呑みにし、その經典における附注例を部分的に挙げて終わりというものである。つまり、従来は原資料の『經典釋文』ではなく、その解釈の整理という二次資料を用いたものが大半だったのである。その結果、見過ごされてきた問題の一つが、時代による変遷に対する視点である。資料を読む際に、多音字に音注があれば、その音が示す意味を『羣經音辨』やそれに拠った後世の資料などで確かめるということがしばしばあるが、それらの資料には時代による違いなどは全く記されておらず、宋代以降の整理によって作られた人為的な音義関係も混在している。この課題の最終的な目的は、多音字の音注解釈の際に参考にされる二次資料の代表的なもので、以後の多音字の解釈に大きな影響をもたらしたと思われる『羣經音辨』第六巻の記述の当否について網羅的に調査、考察し、訓詁学上における『羣經音辨』の意味を明らかにすることである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(平成24年度)の基礎データ入力を計画通り完了したのち、平成25年度は209字について、多音字でない可能性のあるものを抽出する予定であったが、すでに第六巻と前五巻とに重出する字を抜き出して『經典釋文』での注音状況と『羣經音辨』の記述との違いを明らかにし、多音字でない可能性のある字はおおむね特定できたといえ、個別の字についても調査を進めている。それらの調査の結果については「『羣經音辨』第六巻について」(『富山大学人文学部紀要』第59号)、「釋文亨字音義辨析」(『富山大学人文学部紀要』第60号)で報告している。計画通り順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、『羣經音辨』第六巻に収録される字のうち、多音字でないものの調査を個別的に進め、なぜ多音字と解釈されたのかを明らかにするとともに、後世への影響をみていくことにしたい。 具体的には、『羣經音辨』で音義関係が記述されている多音字のうち、『經典釋文』ではほとんど音注のないものについて、『經典釋文』のどの記述が根拠にその解釈がなされたのかを調査することにより、その解釈が正しくないことを明らかにする。 反切などの音注は一字の誤りが大きな結果の違いを招きうるので、異本収集、テキストえいこう校勘の作業も並行して進める。 また、研究の妥当性を確保するため、同じ分野の研究者との研究打ち合わせや関係学会の参加も考えている。
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