研究実績の概要 |
従来の多音字研究では原資料である実際の音注よりも二次的な『羣經音辨』や『經史動静字音』などの記述を根拠にし,その解釈を踏襲するだけのものが多かった。『羣經音辨』は辨字同音異、辨字音清濁、辨彼此異音、辨字音疑混、辨字音得失の五門に分かれ,辨字同音異は巻一から巻五に,辨字音得失は巻七に,その他の三門は巻六に収められている。辨字同音異が『經典釋文』の忠実な解説だが,巻六の三門は宋代以降に、当時の品詞觀によって解釈され、『經典釋文』の音注の意図を正確に伝えているものとはいえない。巻六の三門はその部分だけが抜き出されて他の書物に引用されることも多く,分量的には七巻のうち五巻を占める辨字同音異にはるかに及ばないものの,後世に与えた影響は大きい。この課題の目的は,多音字の音注解釈の際に参考にされる二次資料の中で代表的なもので、以後の多音字解釈に決定的な影響を与えたと思われる『羣經音辨』巻六の記述の妥当性について調査・考察し、訓詁学史上における『羣經音辨』巻六の意味を明らかにすることである。今年度は,過年度の成果、すなわち巻一~巻五と巻六の性質の違いに対する理解を基礎として,『羣經音辨』の入力済みデータを用い,巻六収録字のうち,特に問題となる数字について詳細に考察した。その報告は「假字音義辨析」(東方學研究論集刊行會編『東方學研究論集』,臨川書店,268~281頁,2014年6月)「『經史動静字音』について」(『富山大学人文学部紀要』61,129~137頁,2014年8月)、「『羣經音辨』巻六について(2)」(『富山大学人文学部紀要』62,187~205頁,2015年2月)に発表した。
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