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2012 年度 実施状況報告書

新出マニ教絵画を援用した中世イラン語の研究

研究課題

研究課題/領域番号 24520463
研究種目

基盤研究(C)

研究機関京都大学

研究代表者

吉田 豊  京都大学, 文学研究科, 教授 (30191620)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2015-03-31
キーワードマニ教 / 中世イラン語 / マニ教絵画 / ソグド語 / 中世ペルシア語 / シルクロード / 文献言語学 / 歴史言語学
研究概要

日本国内で新たに発見されたマニ教絵画が,マニの誕生のシーンを描いたものであることを明らかにするとともに,関連する文献資料との対照を行い,その成果を論文として公刊した.別に,ベルリンのアジア美術館に保管されているトルファン出土のマニ教絵画の断片について,日本にあるマニ教絵画の研究成果を援用するとともに,中世イラン語のうちのパルティア語で書かれたマニ教文献と比較することによって,その描かれた内容を明らかにすることができた.そしてそれを論文にまとめた.これは現在印刷中である.
2012年6月に,京都にある龍谷ミュージアムでこれらのマニ教絵画が一挙に全点展示された際,一連の研究によって得られた知見を一般の人たちに分かりやすく解説する講演会を行った.講演会は頗る盛況で200人入る会場で立ち見者が出るほどであった.またこの展覧会にあわせて出版された展覧会図録の解説にも寄稿し,研究成果の社会還元に努めた.
中世イラン語一般の研究としては,ソグド語を表記するアラム文字起源のソグド文字が,横書きから縦書きへ変化する時代について考察し,5世紀後半にこの変化がおこったらしいことを明らかにし,論文として発表した.縦書きへの移行は中国文化の強い影響に違いなく,シルクロードを通じた文化の交流を跡づけることができた.
また大阪の武田薬品の図書館である杏雨書屋にマニ教中世ペルシア語の写本の断片があることを発見し,研究を始めるとともに,この文書の写真が発表される際は解説を書き発表した.これによって日本にある中世イラン語の資料を公刊するという,申請者のミッションを遂行できたことも特筆しておきたい.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本研究課題は,日本において発見されたマニ教絵画について,美術史の観点ではなく文献言語研究の立場から,絵画に描かれたシーンと文献で知られている内容を比較し,文献の内容や言語表現を明らかにすることを目的とする研究である.24年度に於いて,日本国内で前年新たに発見されたマニ教絵画の内容を,マニ教テキストと比較することによって,マニの誕生のシーンに比定し得たのは誇るべき成果である.これは当初の計画に則した研究と成果であって,計画が順調に進んでいることを示すものと考える.別に未発表の中世ペルシア語文書が日本にあることも発見し,解読して内容を明らかにし得たことも計画の遂行の一環である.
また,当該年度の研究をすすめるなかで,マニ教中世イラン語のうち,ソグド語に関する辞書がイギリスとドイツの研究者の共著として,ベルギーで刊行されたが,そのうち意味が定まっていない語彙に関する記載事項を詳細に検討し,われわれのマニ教絵画がその解明に寄与できるかどうかを調べた,またそれ以外の項目についても誤った記載がないか調査した.これは時間がかかる作業であったが,得るものが少なくなかった.この作業によって得られた知見を,今後の絵画研究に活用する糸口を見つけることができたと考えている.

今後の研究の推進方策

本年度は,日本に現存するマニ教絵画全体について,その内容についてできるだけ詳細な記述を行うとともに,その枢要を英語にする作業を行いたいと考えている.その作業と並行して,絵画のなかの解釈できない部分がどれだけあるかについて明確にしておくつもりである.未発表の中世イラン語のマニ教文献を解読したり,既に発表されている文献を精読することによって,これらの未解明の部分のいくつかを解明できるのではないかと考える.得られた成果は国際マニ教学会で口頭発表し,専門家のreviewを受けたいと考えている.
近年中国の福建省で清朝時代の漢文マニ教文献が多数発見され注目されている.まだ全貌は明らかになっていないが,既に発表されているテキストを参考にすれば8世紀から11世紀かけて中央アジアで読まれていたテキストとの著しい類似姓が認められる.これらのテキストもまた我々のマニ教絵画の究明に資するものと考えられ,注意深く検討する計画である.さらに驚くべき事に,これらの文書には中世イラン語を漢字で表記した部分も見つかる.類似の漢字音写した中世イラン語について既に研究したことがあるので,その経験を活かしてそれらの漢字音で音写された讃歌を本来のイラン語に復元する研究を進めてみたいと考えている.

次年度の研究費の使用計画

中世イラン語マニ教文献や,マニ教一般の歴史や教義,さらに関連する歴史・文化に関する研究成果を含む書籍が中国やヨーロッパで陸続と発表されており,まずもってそれら最新の書籍の購入に科学研究費の一部を使う予定である.また現在使っているラップトップPCは2009年度に購入したもので古くなっているので,最新の機種と買い換えたいと考えている.
研究費を研究成果を国際学会に於いて口頭発表するための旅費に使うことはもとより.国内外の専門家,マニ教中世イラン語文献の現物や写真を保管する研究機関への調査旅行の為にも旅費を支出する.
研究のための資料整理や,画像を含む論文作成の補助として謝金を支出する.余剰があれば英文で執筆した論文の校閲をネイティヴスピーカーに委託する際にも謝金を使いたい.

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2013 2012

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] When did Sogdians begin to write vertically?2013

    • 著者名/発表者名
      Yutaka Yoshida
    • 雑誌名

      Tokyo University Linguistic Papers

      巻: 31 ページ: 375-394

  • [雑誌論文] Review of Bactrian documents I and III2013

    • 著者名/発表者名
      Yutaka Yoshida
    • 雑誌名

      Bulletin of the School of Oriental and African Studies

      巻: 76 ページ: 156-159

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Heroes of the Shahnama in a Turfan Sogdian text. A Sogdian fragment found in the Lushun Otani Collection2013

    • 著者名/発表者名
      Yutaka Yoshida
    • 雑誌名

      Sogdians, their precursors, contemporaries and heirs

      巻: 1 ページ: 201-218

  • [雑誌論文] マニの降誕図について2012

    • 著者名/発表者名
      吉田豊
    • 雑誌名

      大和文華

      巻: 124 ページ: 1-10

    • 査読あり
  • [雑誌論文] New Turco-Sogdian documents and their socio-linguistic backgrounds2012

    • 著者名/発表者名
      Yutaka Yoshida
    • 雑誌名

      Essays of Turfan forum on old languages of the Silk Road

      巻: 1 ページ: 48-60

  • [学会発表] バクトリア語文書研究の近況と課題2013

    • 著者名/発表者名
      吉田豊
    • 学会等名
      中央アジア学フォーラム
    • 発表場所
      大阪大学文学部(豊中市)
    • 年月日
      20130330-20130330
    • 招待講演
  • [学会発表] 死語の方言と系統樹モデル 中世イラン語東方言を例に2013

    • 著者名/発表者名
      吉田豊
    • 学会等名
      樹(tree)について考える
    • 発表場所
      民俗学博物館(吹田市)
    • 年月日
      20130210-20130210
    • 招待講演
  • [学会発表] ゾロアスター教とマニ教の世界観2012

    • 著者名/発表者名
      吉田豊
    • 学会等名
      龍谷ミュージアム連続講演
    • 発表場所
      龍谷大学(京都市)
    • 年月日
      20120610-20120610
    • 招待講演
  • [図書] 朝倉世界地理講座―大地と人間の物語― 5 中央アジア2012

    • 著者名/発表者名
      吉田豊他
    • 総ページ数
      500
    • 出版者
      朝倉書店

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公開日: 2014-07-24  

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