本研究は、バリ言語社会の「多数派」であるバリ語平地方言話者によるバリ語とインドネシア語のコード混在についてすでに私が行った記述・分析を根幹として、「少数派」、つまり近年増加しているインドネシア語をより多用するバリ語平地方言話者とインドネシア語と平地方言の干渉を受けつつあるマイナー方言のバリ語山地方言話者にも調査対象を広げ、バリ社会の会話コーパス構築を主な目的としている。 平成27年度は、現地調査を約2週間実施した。山地方言使用地域であるバリ州ブレレン県プダワ村において、前年度に引き続き山地方言の会話および語彙を収集・記録した。また、日常的な会話の他に、現地の宗教儀礼、通過儀礼、村・集落の会議(慣習村、行政村)などの言語使用領域における口上ややりとりも観察し、収集した。 また、インドネシア語を日常的に用いるバリ語平地方言話者が行う会話における二言語のコード混在についても分析した。バリ語をより多用する二言語話者によるコード混在とは異なる特徴として、インドネシア語優勢の会話においてバリ語の特に文末詞が多く用いられていることがわかり、それは「バリ語らしさ」を示しているという解釈を提案した。11月開催の日本インドネシア学会で、その内容を発表した(同学会誌に掲載予定)。 研究期間全体を通じて、バリ言語社会を構成する話者タイプのうち、特に社会言語学的な研究が遅れていたバリ語山地方言話者による会話の収集・記述を進め、平地方言とインドネシア語の影響(借用、コード混在)を知るための基盤を作ることができ、また、近年増加しているインドネシア語優勢の平地方言話者の会話に見られる二言語のコード混在の考察も行い、バリ言語社会全体の社会言語学的な理解を高めることができた。
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