本年度は最終年度にあたり、戦国簡牘文字の多様性の要因にかかわる分析・考察を継続して実施し、以下の研究成果を得た。 (1)清華大学蔵戦国竹簡『厚父』に関する検討……『厚父』は王と厚父との問答によって構成され、夏代の政事や民の統治などを主題とする逸書である。本研究では、文字分析の一環として本篇が想定する時代およびその性質について考察を加え、厚父と問答する王は商王であり、本篇は夏の滅亡を歴史の教訓とし、天と民とを主題に展開された『尚書』類の「商書」に属する文献と見なされることを明らかにした。この成果は、論文「清華簡〈厚父〉的時代曁其性質」にまとめ、2015年10月17日~18日に台湾大学文学院において開催された「第二届先秦兩漢出土文獻與學術新視野國際研討會」で発表した。 (2)清華大学蔵戦国竹簡『良臣』・『祝辞』に関する検討……『良臣』・『祝辞』は一つの冊書に編綴された、同じ書写者によるテキストと見なされている。本研究では文字形体・用字習慣・書法の三方面から分析を加え、書写者は晋系の用字習慣をもつ非楚人であり、両篇は文字・書法の両面において極めて純度の高い晋系テキストであることを明らかにした。この見解によれば、『良臣』・『祝辞』はこれまでに例のなかった晋系の戦国竹書であり、晋系の文字・書法の実態を解明する上で、きわめて貴重な資料として位置付けられる。この成果は、論文「清華簡『良臣』・『祝辞』の書写者―国別問題再考―」にまとめ、平成28年中に発表する予定である。 以上の研究成果とともに最終年度における総括として、近年、戦国竹簡の大量出土により急速な進展を遂げている戦国文字研究について、1993年出土の郭店簡以後における戦国竹簡文字を中心に研究の概要をたどり、今後の課題を明らかにした。この成果は、論文「戦国竹簡文字研究略説」にまとめ、平成28年中に発表する予定である。
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