研究実績の概要 |
生成文法と形式意味論の観点から、指示表現の生成過程を言語哲学との関連で考察し、論文にまとめた(日本独文学会研究叢書 "Linguisitische Sprachphilosophie"(田中愼 編 2014、日本独文学会)所収論文(吉田(2014) 「統語的構造構築と対象指示・状況認知とのインターフェースとしての普遍文法に向けて」)。 日本語・ドイツ語の直示・照応表現に関する先行研究を再検討し、特に中距離指示の「ソ」の英語・ドイツ語の対応(that, der, dieser)の比較を、コーパスを参照しつつ行い、次の結論を得た。(1)発話場面に関わる直示と談話文脈に関わる照応は、指示表現の点で統一的に把握できる。(2)近接・遠距離の対立は英語・日本語では有意味であるが、ドイツ語では近接だけが意味を持つ(this-that, コ・アの対立に対し、ドイツ語ではdieserのみが存在)。その代わりドイツ語では、近接と非近接のdieser・derの対比が存在する。(3)話者の近接領域と遠距離領域は、テクストの文脈上の照応関係にも写像される(近接this, コ系、 dieser。遠距離のthat, ア系、jener (書き言葉に限定))。ただし照応では、指示詞derは近接領域と関係しやすい。(4)日本語・ドイツ語では、距離に無関係に話者の特定視点や参照枠に応じて指示対象が変動する指示詞(ソ系、der系)が存在する。それは、話者が直接に操作できない間接的参照視点が介在する変項解釈が可能な場合(日本語、ドイツ語)や、人称代名詞er/sie/es (=he/she/it)との対比で話題転換を導入する場合である(ドイツ語der系)。最終的に、これらの結果を論文にまとめた(吉田(2014)「日本語・ドイツ語・英語の指示詞の比較に関する一考察」『欧米文化研究 21号』)。
|