研究概要 |
本研究は,言語の「自然さ」,「~語らしさ」ということはどういうことかについて理論化し,説明を試みるものである。すなわち,客観世界に対する事態認識の言語化および構文間の連関と対立の関係に反映される話者の事態認知上のカテゴリー化の動機づけを明らか にする。 研究方法は,1) 文献資料からの用例収集; 2) パラレルコーパスからの用例収集; 3) 母語話者への聞き取りによる用例収集; 4) 収集したデータの分析と意味地図の記述; 5) 母語話者への使用意識調査; 6) 認知様式や伝達慣習との関連性の分析・検証,の6段階の手続きによって行う。パラレルコーパス(対訳コーパス)とは,複数言語について,特に,意味内容がほぼ等しいと考えられる文について対応関係が付いているコーパスである。本研究では日本語は主体結果構文(シテイル),受動構文(サレル),客体結果構文(シテアル) ,ロシア語は受動構文 (быть + V-н-/-т-),不定人称構文 (主語がなく,動詞は3人称複数形) の構文について調査を展開していく。 当該年度に実施した研究成果として,まず,パラレルコーパスの電子化および用例収集を行った。書きことばを中心にロシアや日本の近代から現代にかけての,短編小説を中心にまずは日本語からロシア語へ翻訳されたものを選定して2作品,ロシア語から日本語へ翻訳された短編小説を2作品,DVDを用いてロシア映画のセリフのパラレルコーパスとして1作品を電子化した。 次に,電子化したパラレルコーパスを資料として,日本語は主体結果構文(シテイル),受動構文(サレル),客体結果構文(シテアル) ,ロシア語は受動構文 (быть + V-н-/-т-),不定人称構文 (主語がなく,動詞は3人称複数形) について,同一場面での構文の選択という観点から分析を行い,日本語とロシア語の客観世界に対する事態認識の言語化の差異,すなわち,日本語はロシア語に比べて事態を主観的に把握する,ということを主張した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は,未だ研究の蓄積が脆弱な状況であると言える言語の「自然さ」,「~語らしさ」ということはどういうことかについ て明らかにすることにある。そのため,日本語およびロシア語においてアスペクト,ヴォイスの両範疇にまたがる構文の形式と意味の 関係はどうなっているか,また言語間でどのような構文の分布パターンが見られるかを検証していく。研究目的の達成のため,次年度においてもひきつづき次の4点を実施する。 1ロシア語と日本語のパラレルコーパスの電子化と用例収集;2収集したデータの データベース化; 3収集したデータの分析と意味地図の記述; 4各言語の母語話者100名ずつ(計200名)の使用意識調査; 5認知様式や伝達慣習との関連性の分析・検証 これらの実施にさいしての研究費の使用計画は次のとおりである。1にかんしては,パラレルコーパスとなる図書(文学作品)やDVD(映画)などの購入と電子化の作業費が必要となる。2にかんしてはデータベース化のためのPCおよびデータ化の作業の費用が必要である。 また,収集したデータを保存し管理するためのハードウェア等も必要である。3にかんしては,アンケートの調査票作成のための諸経費,母語話者200名にたいする謝礼と,ロシア語母語話者への調査については調査に赴くためのロシアへの渡航費用が必要である。この調査では,対象者に気持ちよく協力してもらい,より妥当性の高い結果が得られるよう,商品券を謝礼として提供する。 次年度は最終年度にあたるため,1-4の実施をできるだけ上半期で終え,下半期は5認知様式や伝達慣習との関連性の分析・検証に力を入れたい。
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