本研究では「黄色の服を着た少女の母親」のように関係節(黄色の服を着た)の先行詞となることができる名詞句(低位名詞句:少女、または、高位名詞句:少女の母親)を複数含む文の処理において、先行する談話文脈の情報が関係節の先行詞選択に関する曖昧性を解消するタイミングについて調べた。 調査方法としては質問紙法で関係節の先行詞選択に関する最終判断を調べた後、眼球運動測定により処理途中における判断を調べた。それから両者の結果に基づいて先行文脈が文処理に与える影響のタイミングを検討した。 本年は主に第一言語としての日本語を扱った。関係節内の敬語表現の有無によって2つの名詞句のうち片方のみが先行詞になる文と、先行文脈が片方の名詞句を先行詞として支持する条件(文脈あり条件)と先行文脈のない条件(文脈なし条件)を作った。行動実験の結果では、文脈なし条件に比べて文脈あり条件では文脈の内容と合う先行詞の選択が増えた。視線計測の実験では文脈あり条件の方が文脈なし条件よりも眼球の停留時間が短くなった。しかし処理の初期段階では先行文脈の影響は見られなかった。先行詞から関係節への戻り視線に関して文脈と統語的バイアスとの優位な交互作用があり、文脈なし条件では高位と低位のバイアスの効果の差は見られなかったが文脈あり条件では高位接続バイアス条件の方が低位バイアス条件よりも戻り視線が多くなった。また、前年度までに英語に関する同様の実験を実施したが、母語話者についてその補足の実験を行った。学習者では関係節の付加位置選択について処理の初期段階から先行文脈の情報の影響が見られたが、母語話者では文脈の影響は見られなかった。 全体の結果としては、英語母語話者も日本語母語話者も文脈があると読みが速くなるが、文処理の初期段階では関係節の先行詞選択に先行文脈の情報の影響は受けず、後の処理段階で影響を受けることが分かった。
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