研究課題/領域番号 |
24520487
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸市立工業高等専門学校 |
研究代表者 |
今里 典子 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (90259903)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 日本手話 / 文法関係表示 / 助動詞 / 移動構文 / 文法化 / 虚構移動 / 視覚動詞 |
研究概要 |
日本手話(JSL)において,主語/目的語の文法関係を表す方法として,非常に一般的な「一致動詞(始点/終点)の使用」,「体の位置/向き」,「文末指差し(PTx)」,の3つに加えて,特定のいくつかの手話言語で存在が報告されている「助動詞(AUXの始点/終点)の使用」,計4つのパタンの存在を改めて確認した.その上で次のような分析結果を得た. 1. 「文末指差し」の方法は,一致動詞とは共起しにくい傾向があり,「助動詞」の方法はさらにその傾向が高い. 2. 「助動詞」は共起する動詞の意味に制限がある.「知る」「恐れる」「好む」など,対象に対する好悪の感情を表現する動詞が多く,「知る」の例で顕著に見られるように,それらの例の多くでは,助動詞が動詞「見る」と交替可能であることが観察された. Fischer(1996)をはじめとするJSLを対象とした先行研究では,「助動詞」の使用例が数例しか分析されていなかったこともあり,特に2.の指摘は十分に議論されていなかった.またFischerは「助動詞」のような文法の発生について,経路を表す一致動詞との関連を示唆していたが,実証には至っていない.豊富なデータに基づき,文法関係を表す「助動詞」と,視覚動詞(および「文末指差し」)との関連において,この問題の解決に近づく事が出来る可能性を見いだした. 3. 「一致動詞の使用」,「体の位置/向き」,「文末指差し」は一般的に広く使用されるが,「助動詞」は手話の習熟度等により使用の割合がことなる可能性が観察された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
日本手話のデータを記述し,分析を進めることができた.このことにより日本手話のデータベースの充実に貢献している。 これらのデータから初年度に予定していた,JSLに見られる4つの文法関係表示の例を確認できた。 さらに,本来は翌年(平成25年度)に実行の予定であった,「助動詞」についてデータ採集と分析を開始できた事から,設定した目的の3つのステップのうちの1つ目,つまり「助動詞」と共起可能な動詞群の特定を行った.これにより,1. 共起する動詞群は従来指摘されていたよりも数多く観察できる事,2. 共起する動詞は必ず非一致動詞であり,他者に対する好悪の感情を表すという意味制限がある事,多くの例で助動詞自身が視覚動詞「見る」と交替して類似の意味を表現する事ができる事も明らかに出来た.これらの結果についてはさらにデータを増やす必要はある。分析結果の一部は,論文として準備中である.よって予定よりも少し進んでいると言える.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に実施予定であった,文法関係を表示する「助動詞」について,手話話者の協力を得てより多くのデータ採集,及び分析をさらに進め、得られた分析結果の検証を行う必要がある.「助動詞」について,特に手話の習熟度と使用頻度の関係については,データ数も分析も不足しているので,これから本格的な作業が必要である.これに加えて,現在までに分析した移動構文のデータとの比較,「助動詞」と共起する動詞の詳細な分析をすすめ,Fischerらの先行研究で主張されていた当該文法の成立,および移動構文との関係について明らかにする事を目指す.また「文末指差し」など他の用法との関係についても考察していく必要がある.
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き手話表現を撮影する為に,撮影場所への旅費,会場借り上げ費用,ネイティブサイナーへの撮影時および分析時の謝金が継続的に必要である.また引き続き必要な書籍の購入,学会や研究会への参加旅費も必要である.コンピュータや,モニタ,ビデオカメラ,ソフト等は,できる限り現在使用中の資源を利用するが,ストレージについてはこれからも増やす必要がある.本年度の研究費は主に,データ採集やその分析作業,結果公表等を中心に使用する予定である.
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