研究課題/領域番号 |
24520491
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
齋藤 倫明 東北大学, 文学研究科, 教授 (20178510)
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研究分担者 |
小林 隆 東北大学, 文学研究科, 教授 (00161993)
大木 一夫 東北大学, 文学研究科, 准教授 (00250647)
甲田 直美 東北大学, 文学研究科, 准教授 (40303763)
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キーワード | 近代日本語学史 / 山田孝雄 / 岡沢鉦治 / 菊沢季生 / 安藤正次 / 小川尚義 / 周辺 / 台湾 |
研究概要 |
近代日本語学史の中で、山田孝雄は大きな存在である。特に、陳述論を基底に据え独自の体系を構築し「山田文法」と呼ばれた文法論、および『奈良朝文法史』『平安朝文法史』『平家物語の語法』を中軸とした日本語史研究は、その後の研究者に大きな影響を与えた。しかし、山田は日本語学史に突然現われたわけではなく、山田以前に山田の出現を準備した幾つかの流れが見られる。たとえば、明治初期の折衷文法として知られる大槻文彦の大槻文法などがそうである。 また、山田の打ち立てた成果が、山田以降、近代日本語学史の流れの中でどう受け継がれて行ったのかも重要な問題である。たとえば、山田文法をいち早く評価した松下大三郎の松下文法と山田文法との関係なども、未だ充分に明らかにされているとは言えない。 そういった山田の近代日本語学史上における位置づけを考えるために、昨年度は大阪大学附属図書館に赴き資料調査を行なったが、本年度は、それを受け継ぎ、大阪大学の日本語学研究者・大学院生との間で、近代日本語学史に関する合同研究発表会を開催した。 山田孝雄の周辺には、山田の影響を受けつつも、独自の研究を続けた多数の研究者が存在するが、中で異質なのが安藤正次である。安藤は、日本の言語学を育てた東京帝国大学の上田万年の弟子でありながら、必ずしも上田の学風を積極的に受け継がず、日本統治時代の台湾の台北帝国大学文政学部に教授として赴任し、当時あまり顧みられることのなかった古代日本語の語詞構成について多くの論を発表したが、その過程で、時に山田の『奈良朝文法史』を批判し独自の主張を展開した。その活躍の有様は著作集に収められた諸論考からも窺えるが、昨年度に引き続き本年度も、同大学の後進である国立台湾大学の図書館を実際に訪れ、当時の資料を調査するとともに、台湾滞在時における安藤の事績をたどった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
山田孝雄は、近代日本語学史上における巨大な存在であり、その業績や位置づけを巡っての論考も頗る多い。それに対して本研究の主眼とするところは、山田を中心としながらもその周辺の研究者が山田といかに関わり、あるいは反発しながら近代日本語学を全体として発展させてきたか、という点を明らかにするところにある。 しかし、「周辺の研究者」といっても、その内実をどのように捉えるべきかについては、なかなか難しい問題が存在する。たとえば、「周辺」というのを時間的・地域的・分野的・影響的、のどのような側面として理解するのか、といった点である。 昨年度と本年度で、岡沢鉦治・菊沢季生、安藤正次・小川尚義といった研究者を取り上げ考察を行なってきた。この点では、一応の成果が挙がったと考えられる。しかし、これらの研究者がどのような側面において山田の「周辺の研究者」と位置付けられるのか、すなわち、単なる山田との関係の在り方だけではなく、近代日本語学史上における「中心」と「周辺」の在り方としてどのような類型を形成するのか、といった視点におけるアプローチがまだ不十分であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今回、山田孝雄の「周辺の研究者」として捉えた研究者のうち、岡沢鉦治に関しては、主著『言語学的日本文典』と山田文法との文法学的な関わりの内実について、また、菊沢季生に関しては、「国語位相論」における「位相」概念と山田文法の関わり、つまり語彙論と文法論との相互交渉の在り方について、更なる探求が必要である。 一方、安藤正次・小川尚義については、主要な活動場所が台湾であったことを考えると、山田との関係をどう捉えたらよいのか、あらためて考え直す必要がある。また、両者とも東京帝国大学で上田万年に学んだ同門の士であり、台北帝国大学文政学部で一時期同僚であったのにも拘わらず、双方の学問には相当の隔たりが感ぜられる。この点と山田との関係の捉え直しがどのように関わってくるのかが今後の課題となろう。いずれにしても、この両者に関しては、実際に台湾に赴いて綿密な調査を行なう必要がある。 この他に、上記4名以外に山田の「周辺の研究者」としてどんな研究者が想定できるのか、あらためて視野を広げて考える必要があろう。たとえば、山田文法以外のいわゆる四大文法論の創始者(松下大三郎・橋本進吉・時枝誠記)や山田以前の大文法である大槻文法の創始者大槻文彦といった存在も、山田を中心として見れば「周辺」と捉えることが可能なのか、そして、それはどんな意味においてなのか、といった点が今後の更なる検討課題となるであろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
当研究課題の場合、山田孝雄の「周辺の研究者」として、日本統治時代に台湾で活躍した安藤正次・小川尚義を取り上げるが、その研究業績を具体的かつ実証的に探るためには台湾での実地調査が欠かせない。そのため、今年度は、研究代表者と分担者の複数が台湾に赴き調査を行なう予定であったが、日程的な都合で代表者しか台湾を訪れることができなかった。その分予算が残ってしまった。 山田孝雄の「周辺の研究者」のうち、岡沢鉦治に関しては、同じ文法論の研究者として、山田との関係が比較的つかみやすいが、菊沢季生に関しては、「位相語」という語彙論の研究者であるので、山田の文法論との関わりをどう考えたらよいのか、菊沢の研究内容・研究背景を更に探求することを通して明らかにしたい。 上述したように、今年度は、台湾での実地調査が不十分であったので、次年度は、その辺を充実させたい。特に、台湾において、現地の日本語学研究者・日本語教育研究者との意見交換会、あるいは合同研究発表会の開催等を行ないたい。
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