本研究は、近年の統語理論および音声音韻研究の成果をよくふまえた上で、平家正節に代表される、平曲の語りに関する譜記を有する平家物語諸本を基幹資料とし、日本語イントネーションに関する史的研究をおこなうことを主目的としたものである。その際特に、各要素が情報構造上になう役割の違いに応じて統語論的位置を占め、ii) 音韻論的な句のまとまり形成に関し、いかなるふるまいを示していたかという点を中心に分析をおこなう点に特徴がある。研究最終年度にあたる平成27年度には、岩波書店から刊行された共著書の中にその成果を反映させた。そこでは、生成音韻論の流れの中で提唱された最適性理論や、音声学に基づく音韻論、調和度文法等、最適性理論と比較的かかわりの強い音韻理論、さらには、コーパス言語学のように、生成音韻論の流れとは異質な、統計学的分析手法を用い、音調を含む音声音韻の史的研究にアプローチする、比較的近年の試みをとりあげ、そのような試みを日本語に関し行う上でおさえられるべき事項のうち、重要と思われる点を記述した。また具体的文献資料として『平家正節』中の章段をとりあげ、現代語音声の音調に関する、自律分節韻律音韻論の枠組みを用いた分析や、統語・意味・情報構造とプロソディー構造との関わりに関する実験音韻論的分析から得られる知見等をふまえると、どのような視野がひらけてくるかをあらためて論述した.
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