研究課題/領域番号 |
24520503
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
犬飼 隆 愛知県立大学, 日本文化学部, 教授 (20122997)
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研究分担者 |
金森 康和 愛知県立大学, 情報科学部, 准教授 (50230868)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 名古屋言葉 / 方言研究 / 音響研究 |
研究概要 |
研究の目的は名古屋言葉絵葉書に書かれたことばの方言としての性格を確認しながら、その音声を分析し当時の話し方を再現すること、その結果を音声を含めた資料として整理すること、そしてそれを学習教材や介護現場での素材として使えるものに整えることである。 24年度は、調査対象者と調査方法を固めることを主な目標とした。5枚の絵葉書を選び、全体4組、約30人の70~80歳代の方々に対して調査を行った。書かれている言葉と絵柄についてインタビューし、読み上げていただいたものを録音した。この方々には、次年度も協力していただける見込みができた。さらに増える見込みもある。また、日ごろ互いに交流のある方々を選んだので、絵葉書に書かれている文章が対話形式であることに適したよみあげを録音することができた。 方言の研究としては、書かれている言葉が大正末期から昭和初期の名古屋の大須界隈のものを中心としていることが明瞭になった。岩倉、小牧市近辺の方々や名古屋市東部の方々には理解できない言葉づかいを西大須に在住の方々が理解でき自然なイントネーションで読みあげることができたからである。 音響の研究としては、最初に録音した2枚の絵葉書による分析から、名古屋弁は標準語に比べて約9%の短母音が少なく、母音脱落の傾向が確認された。一方、名古屋弁の変母音発声では高年層において見られる最初のフォルマントを維持する遷移が若年層では見られない。そこで、/ai/の変母音について、フォルマントの遷移の仕方や高さを変え、70~80代の高齢者3名と、20代前半の若年層6名に聴取実験を行った。その結果、評価値の平均に大きな差がみられ、F2が高いほど高年層の評価が低くなる傾向が見えた。しかし、遷移の仕方の違いによる差はほとんど検出されず、フォルマントの維持が名古屋弁らしく聞こえるとは限らないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
年度当初にたてた計画のうち、当初、調査方法において、一件の齟齬が生じた。介護現場の回想法に調査を組み込む計画であったが、所属大学内の研究倫理審査において、患者への特段の配慮を指示されたからである。対応策として、調査対象を健常者に限ることとして問題がなくなったが、研究の開始が遅れた。 方言研究においては、仲間意識をもつ方々を選んで対話形式で録音する計画は達成できたが、少しの問題が生じた。名古屋弁に特有の変母音を保持している80歳代の方々は、読みあげていただくことがうまくいかない。 音響研究においては、名古屋弁らしさを認識する音響的特徴のうちフォルマント遷移の仕方に関しては若年層と老年層とで統計上の明瞭な相違が得られなかったので考え方を改め、適切な方法をとる必要がある。 これらの検討課題は次年度に改善方法を考えながら実施する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は調査体制の確立、調査方法の工夫、調査対象の確保を優先的な目的にした。ほぼ目論見どおりに目的を達成できたので、次年度以降は遅れを取り戻してスムースに研究がすすむと期待される。3年計画なので、次年度は調査の量、資料の蓄積に力をそそぎ、次々年度に行うまとめの内容が充実するように準備する。 具体的には、次年度は調査対象としてとりあげる絵葉書の枚数を多くする。読みあげの録音に関しては、完成したものとして保存できる質のものの作成をめざす。 方言研究に関しては、先行研究との照合をすすめながら、なお地域差、階層差の分析を精密化する。なお、絵葉書の刊行は先行研究で昭和5、6年と推定されていたが、昭和2年の消印を有する使用例が見つかったので、当時の社会資料から、その点について再検討する。 音響研究に関しては、初年度に録音した資料の音響分析をすすめ、その結果を利用して聴取による弁別認識の実験に関して改善策を考える。さらに、名古屋弁らしい音声を合成するために、録音資料から帰納して当時の音韻、アクセント、イントネーションに関する規則の記述をすすめる。 最終年度は、それらの結果をまとめながら、資料として公開する方法をさぐる。研究協力者と相談してシンポジウム形式による一般公開も予定する。また、介護・医療現場に提供して利用していただける形態と方法を工夫する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は高額な機器の購入を見送った。より適当な機種を選定するためである。それに相当する備品は次年度には購入する予定である。それ以外の備品費、旅費、人件費・謝金、その他は申請時の計画通りに使用する見込みである。
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