今年度は、まず第1に、前年度以前から行ってきた先行諸資料の検討のうち、中央式諸方言の方言辞典・方言集のアクセント記述の考察をさらに進め、調査報告論文としてまとめることができた。とりわけ、資料として完全ではないが部分的に利用できるものを詳細に検討し、その資料の著者の中央式アクセントに関するアクセント観を探り、また方言アクセント研究史上の位置付けを行った。一例として、方言辞典では中央式アクセントの最初の記録である田中萬兵衛(1934)の検討を行った。 方言辞典・方言集にみられる中央式アクセントのアクセント観に関しては、ほとんどが段階観(高低2段階がほとんどだが高中低の3段階のものが一つあった)によるものであって、方向観と段階観の両方が含まれるものが若干あった。上記田中(1934)は、方言アクセント研究の初期のものであって、方向観と段階観の両方が未整理な形で共存しているものであることを明らかにした。方向観のみによる記述はまったく存在しなかった。 第2に、これまでアクセント類別語彙として収集されてきた個々の単語が、現代語においてどの程度基本的なものであるかを、天野他1999『日本語の語彙特性』(三省堂)及びTono 他 (2013) A Frequency Dictionary of Japanese (Routledge)の、馴染み度・頻度を参照して検討した。その結果、2拍体言および動詞・形容詞については各類にかなりの数の基本的な語が含まれるが、3拍体言・1拍体言は各類に必ずしも十分な数の基本的な語が含まれていないことが明らかになった。これは、とくに3拍体言において諸方言間のアクセント対応が不明確な場合が目立つことと無関係ではないと思われる。
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