本研究では、日本語コミュニケーションの史的変遷を究極の課題として、夏目漱石の小説作品を主たる対象にして、コミュニケーション類型の分類と、ストラテジーを中心にした談話分析を行った。その成果を小川栄一『漱石作品を資料とする談話分析 漱石の文学理論に裏付けられたコミュニケーション類型の考察』(平成29年4月 A4版163ページ)に著した。その結論を述べると、漱石作品における談話の特徴は「不完全なコミュニケーション」であり、これは漱石が『文学論』(1907)で述べる「F+f」理論を具体化したものであり、これによって、ユーモアのみならず、人間の心理的な葛藤など、多彩なf(情緒)を生み出している。
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