昨年度までの準備作業にもとづいて、三つの点を追究した。 第一は、「つ」「ぬ」との対立を意識した基本形理解の深化である。昨年度の研究発表を展開し、基本形についての考えを論文化した(「「無色性」と「無標性」―万葉集運動動詞の基本形終止、再考―」日本語文法14-2)。研究代表者のこれまでの研究を見直し、本研究課題(および今後の研究)につなげる位置にあるような議論ができたと考える。 第二は、これまでその特異性が指摘されながら、その中身があいまいなままであった中間的性質を持った述語形式(中間的複語尾)の性質に関する検討を行った(成果は、『日本語文法史研究2』ひつじ書房に掲載の論文として公表)。大きく二種に分類し、第一種(「ず」「べし」)は文末にのみ現れる形式と共通性を持ちつつ別の解釈が可能なもの、第二種(「つ」「ぬ」「たり(り)」)は動詞の語尾と歴史的にも性質的にも連続性を持つ点で「(ら)る」「(さ)す」「しむ」などと共通点を持つものと理解した。この二つ目の点は、「文法化」研究に対して視点を提供する議論でもあると同時に、古代語の述語体系を考える研究代表者の長期的な研究目標にとっても重要なものであり、体系記述に当たって懸案となってきた問題の一つに見通しを得ることができたと考えている。 さらに第三の課題として、第一の点、第二の点に関する成果を踏まえ、その見通しを具体化すべく、個々の中間的な複語尾について、個別の検討を行った。具体的な業績を上げるには至らなかったが、その記述と説明の方針について、見通しを得ることができた。 第三の点について、具体的な成果を提示できない憾みは残ったが、今年度の研究によって、本研究課題について、所期の目的を果たし、一定の成果を挙げることが出来たと考える。
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