研究課題/領域番号 |
24520514
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
乾 善彦 関西大学, 文学部, 教授 (30193569)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 変体漢文 / 和漢混淆文 / 表記体 / 古事記 / 固有名表記 |
研究概要 |
①本年度は、変体漢文から和漢混淆文への展開を、ひとつの目的的題材として、「戦争の記録」を取り上げて、同一の題材が、時代を通じてどのように展開してゆくかという記述をこころみた。漢文ないし変体漢文は、上代、漢字専用時代において唯一の記録方法であったが、日本書紀や続日本紀のような、漢文体の正式の記録と異なって、古事記は単に記録としてではなく、物語としての記述が中心である。これを引き継ぐかたちで、軍記物語である将門記が成立するが、それは漢文ないしは変体漢文という方法で、ひらがな成立以降の時代にあって、前時代を受け継ぐものであった。それは記録という文体を抜けきらない段階であったといえる。それが、軍記物語いうジャンルを形成するには、それがひらがな文ではなく漢字仮名交じり(古い段階では漢字片仮名交じり)であった点を考えると、和漢混淆文の成立が必要であった。変体漢文から和漢混淆文へと展開するひとつの「場」として、内乱など歴史的な記録を記述する場のあったことを明らかにした。 ②これにともなって、変体漢文である古事記の文章について、そのことばと表記体の関係に検討を加えた。仮名書き部分に「カタリのことば」を見出す方策として、仮名使用の実態を、いままで等閑視されてきた固有名詞表記を含めて検討した結果、神名人名においては、古体の仮名の用法を交えることで、古事記だけでなく日本書紀その他の資料との照合が必要なこと、地名に関しても地名起源伝承には伝統的な表記とともに、古事記成立時の意図的な表記もまじっており、それがかえって、古伝承の存在を予想させることを指摘し、今後、古事記の表記のおける種々の層の引きはがしによって、古事記に書かれたことばを特定することができるという見通しを立てた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、和漢混淆文の成立の背景に変体漢文という方法が存在すること、つまり、和漢混淆文は、基本的に変体漢文から展開したものであることを明らかにすることを目的とする。本年度は、そのひとつの道筋を記述するために「内乱の記録」を取り上げたが、これは変体漢文から和漢混淆文が成立する道筋を記述するのに極めて有効であったと判断する。 また、本研究においてはそのための基本資料である古事記の実態を考究する必要があるが、それは次年度に引き継ぐかたちで成果を作成中であり、この点についても順調に研究が進展している。 さらに、そのための資料の収集についても、順調に集積されており、その成果も次年度の研究に利用する準備が整っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、当初の計画通り、平安時代散文、とくにひらがなで書かれた散文と和漢混淆文との関係について考える予定となっており、すでに平成24年度には、そのための準備も整っている。具体的には、三宝絵三伝本の対照表を作成し、ひらがな文の表記体である関戸本(東大寺切)に漢文訓読的要素の実態を観察することで変体漢文と三宝絵との関係をさぐり、漢文訓読が和漢混淆文の基礎としてどのように機能しているかを明らかにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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