9.研究実績の概要 本研究は、日本語史研究資料としての仮名文書(仮名が使用されている古文書)の資料性の解明を目的とするもので、狙いは鎌倉時代の「話し言葉」資料としての活用である。 平成26年度までは、仮名文書の原本の写真を収集・調査テキストの整備、用例の分析方法の検討・開発に取り組んだ上で、「べからず(不可)」に着目して検討を行い、仮名文書の文体の特色として<実社会の相手や物事に即した詳細性、個別性、具体性が挙げられること>を指摘した。それを踏まえて、最終の27年度には、理由表現「によりて」に着目し、仮名の多い仮名文書と漢字が多い仮名文書の比較、さらに漢字ばかりの古文書との比較を行うことによって<仮名を用いることによる表現の詳細性、個別性、具体性>の実態と特色をより明確に提示した。<漢字専用の古文書と仮名文書とでは、共通する一定の表現形式を有しながらも表現する内容に差がある>こと、<おなじ仮名文書でも仮名を多く用いる文書と漢字が多い文書とでは表現方法に差がある>こと、<漢字を多く用いる仮名文書の表現は漢字専用の古文書に近いが、仮名を多く用いる仮名文書には漢字専用の古文書とは異なる表現の傾向が看取される>こと等を具体的な事例によって示し、仮名文書中の仮名が多いほど、その文体に書手・読手に即した具体性などの「話し言葉」的特徴が現出していることを明らかにした。詳細は『九州産業大学国際文化学部紀要』61号、『同』63号に発表し、あわせて「によりて」節を有する文書名と「によりて」節内の構造等を原本によって整理した一覧を公開した。
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