本研究では主に2つの事項について実施した。 1つは言語聴覚士が日常業務で方言理解にどの程度の困難があり、その内容はどのようなものかについてアンケート、インタビュー調査を行い把握した。 その結果、全国的に見て半数程度の言語聴覚士が方言理解に困った経験を持っていることや、標準失語症検査や認知症検査などの検査の場面にとどまらず、患者の背景を理解する際の会話などに広く困難が生じるケースがあることがわかった。これら方言理解の困難なケースの類型は地域によっても違いがあり、沖縄では「検査場面」「敬語」へのニーズがあった。さらに詳細にみれば、宮古島では検査に出現する語や表現が言語聴覚士に理解されないケース、沖縄本島では患者への方言敬語の使用が問題となるという回答があった。一方、関西地域では在日外国人が患者の場合の認知症検査項目へのニーズが特徴的であった。具体的には、認知症検査の野菜の名称をあげていく場面などで、アジア系の料理で使う聞き慣れない野菜名が出現し、日本人言語聴覚士がすぐには理解できないといったケースが特徴的であった。 2つめは、これらのアンケートをふまえ、SLTAの名詞項目について全国版方言資料を作成した。また、動詞項目も加え、詳細版として宮城県石巻市、群馬県、石川県能登、岡山県津山、広島県、佐賀県鹿島のデータを整備した。いずれもwebで公開し、webからはデータの閲覧および方言一覧のダウンロードが可能となっている。さらに、このページについてはSTに向けたメーリングリストなどで広報した。
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