研究課題/領域番号 |
24520527
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
富澤 直人 山形大学, 人文学部, 教授 (40227616)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プローブ / 素性継承 / 不定詞節 / 多根構造 / 例外的補文選択 |
研究概要 |
ミニマリストプログラムで提案されたC/vからT/Vへの素性継承とC/vおよびT/Vによるパラレルプロービングの仕組みに基づき、とりわけ、補文構造の分類に関する研究を実施した。 Chomsky (2008 On phases)が提唱するECM構文(①)の格照合(値決定)の仕組みを出発点として、定形補文(②)、try類のコントロール補文(③)、そして、allege類の不定詞補文(④)に見られる統語特徴を、次の4つの特性から導出した。第1に、C投射が存在する②③④と存在しない①。第2に、Cが時制素性を持ち、よって、主格素性を持つ②と、時制素性を欠き、よって、主格素性を持たない③と④。第3に、Cがイベント素性を持ち、よって、空格(null Case)素性を持つ③と、イベント素性を持たず、よって、空格素性も持たない④。言い換えると、ECM補文①はCPでなくTPであり、定形補文②は[+tense, +eventive, +Nom, Edge-Feature(EF)]の素性構成を持つ。コントロール補文③は[+event, +NullCase, EF]であり、allege類の不定詞補文④の素性構成は[EF]である。 そして第4として、allege類のVは、補文として、この[EF]のみから成立するCPではなく、このCP内のTPを「例外的に選択」していると提案した。つまり、このTPは、allege類のVのsisterであるばかりでなく、[EF]のみから成立するCのsisterでもあり、よって、2つの根(VPとCP)を持つ「多根構造」(Citko 2005他)が形成されていると提案した。これらに基づきA’移動に見られる特異性等を説明した。 これと平行して、多根構造が付加詞の非循環的付加構造で利用されていること、および、「例外的補文選択」が英語や日本語の否定文や疑問文で利用されていることを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、ミニマリストプログラム(Chomsky 2008 on phases他)で提案されたCからTへの素性継承とCおよびTによるパラレルプロ―ビング(parallel probing)の理論的・経験的帰結を検証し、この仕組みから、【A】継承素性の場合分けによる補文構造の種類分け、【B】不適格移動(A→A’→A)の説明、【C】文主語(sentential subject)と虚辞itの分布の説明、【D】空演算子構文における空演算子のR束縛(Chomsky 1986)の説明を試みることであり、とりわけ平成24年度の研究テーマは【A】とした。 おおむね計画通りに進行し、allege類の動詞の不定詞補文が示す特異な統語特性の説明を含め、前項に概要を挙げた研究成果を、学会発表に応募し、現時点で審査中である。
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今後の研究の推進方策 |
主たる研究テーマを前項内に記載した【B】(不適格移動(A→A’→A)の説明)に設定し、その研究が一定の成果を挙げた後に、【C】(文主語sentential subjectと虚辞itの分布の説明)への展開を試みる。 まず、前年度の研究でまとめ上げたallege類の動詞の不定詞補文の統語分析(すなわち、「例外的補文選択」と「多根構造」)についてさらに研究を進める。allege類の構文では一見「A→A’→A」と思われるような派生が可能であるのに対して、通常の定形補文を超える移動(例えば、英語の長距離wh移動や日本語の長距離スクランブリング)では同様の移動が許されない理由を明らかにする。 次に、C/T領域で発生する事象として、文主語の分布、虚辞の分布、および、それに付随した場所項倒置構文の統語特性を、CからTへの素性継承およびCとTによるパラレルプロービングから説明することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費として、統語論および意味論の書籍を購入するために295,000円を計上する。 研究成果の発表および研究動向の調査のため、学会への旅費として180,000円を計上する。 論文の校正依頼のため人件費あるいは謝金として10,000円を計上する。 海外大学院等で発行する紀要やプロシーディングの購入のための雑費として15,000円を計上する。
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