前年度の研究に引き続き"Think different"の構文分析を通じて、創造的な逸脱表現を認可する文法のしくみについて考察を進めた。 当該表現が命令文であることを前提として、次の3つの構文解釈の可能性が考えられるが、それぞれ単独ではこの表現をもっとも適切に特徴づける説明にはならないことを論証した。(1)形容詞に後続する目的語が省略されている。(2)形容詞が動詞補部として組み合わされている。(3)形容詞ではなく、副詞としてdifferentが解釈される。しかし、関連する言語表現(動詞thinkの限定的な他動詞用法、派生的な同族目的語の用法、形容詞の副詞的解釈における外面的ふるまいから内面的評価への拡張、様態を表わすwayおよびthe sameの副詞化、非実現のモードにおける結果解釈など)を精査すると、当該表現は、標準的な英語話者の文法体系に照らすと厳密には逸脱的であるが、いわば関連する表現のネットワークに支えられて、限定的な文脈においてぎりぎりで容認されうるものであることを示した。さらに、個別動詞としてのthinkの語彙特性が逸脱を生み出す背景にあり、言語使用の場において創造的な言語変化が語彙に関して局所的に拡張していく可能性を示唆した。⇒ 研究発表「創造的逸脱表現の認可をめぐってーThink Differentの構文分析」 また、関連して日常の言語使用における多様な移動表現の解釈を確定する方策をめぐって、Mani & Pustejovsky (2012)の計算言語学研究を批判的に検討し、文法知識の体系と現実の言語使用における意味解釈のギャップを埋める理論研究のあり方について考察した。⇒ 書評論文「Review: Interpreting Motion: Grounded Representations for Spatial Language」
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