研究課題/領域番号 |
24520529
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
朝賀 俊彦 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (80272087)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 語彙認可アプローチ / 範疇変化 / 並列モデル / 指示性 |
研究概要 |
本研究は、英語を中心にイディオム表現や名詞修飾表現などを取り上げ、名詞がある一定の環境において本来的な名詞としての特性を喪失するとともに、一方で新たな特性を帯びる現象を主な研究対象とする。本研究の目的は、統語構造と意味との対応関係を語彙認可アプローチに基づいて分析することにより、範疇変化のメカニズムを解明することである。語の範疇とその特性変化を、統語特性のみ、または意味特性のみの観点からとらえるのではなく、統語と意味の対応関係というインターフェースの問題としてとらえ直す点で、従来の統語的アプローチ、意味的・機能的アプローチとは異なる新たな分析方法を示している。 平成24年度はこれまでの成果に基づき、英語のイディオム表現を中心に、名詞が名詞的特性を喪失する一方で形容詞的特性・数量詞的特性を帯びる過程について、概念意味論的分析の可能性を追求した。具体的には、意味層の概念に基づいて、主に指示性の果たす役割について調査をすすめ、意味特性としての指示指標の存在が範疇としての名詞の規定要因であるとの分析の妥当性について検証を行った。先行研究として、生成文法理論において採用されている統語素性に基づく統語分析、および意味的・語用論的基盤に基づいて語の範疇を規定する分析を取り上げた。これらの分析に批判的検討を加える中で、指示指標を統語特性とする分析の問題点を指摘した上で、指示指標を指示層における意味特性としてとらえる分析を行い、その妥当性を理論的、経験的に検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、統語構造と意味との対応関係を語彙認可アプローチに基づいて分析することにより、範疇変化のメカニズムを解明することである。具体的には、(1)名詞がある環境において本来的な名詞としての特性を喪失し、あらたな特性を帯びる現象を、統語構造と意味の対応関係の変化としてとらえることにより説明を行うこと、(2)範疇としての名詞を規定する特性および範疇変化の環境要因を明らかにすること、(3)上の研究の成果に基づき従来の統語的アプローチ、意味的・機能的アプローチによる範疇の規定方法を再検証するとともに、言語の変異や変化において統語と意味のインターフェースが果たす役割を明らかにすること、の3点を目的としている。 平成24年度は、まず本研究計画の第一段階として、これまでの研究成果に基づき、英語のイディオム表現を中心に、名詞が名詞的特性を喪失する一方で形容詞的特性・数量詞的特性を帯びる過程について、概念意味論的分析を行った。具体的には、異種の意味要素を複数の異なる次元において非階層的に捉える意味層の概念に基づいて、主に指示性の果たす役割について調査をすすめ、意味特性としての指示指標の存在が範疇としての名詞の規定要因であるとの分析の妥当性について検証した。研究の進捗状況は、基本的に当初計画の通りであり、上に挙げた研究目的に照らした達成度については、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成24年度の成果に基づき、研究計画に従ってさらに研究をすすめる。平成25年度は、名詞の範疇変化を示す関連現象の分析を行い、統語構造と意味との対応関係の観点から範疇変化をとらえる可能性についてさらに考察をすすめる。 具体的には、クオリア構造に基づく意味分析を援用しながら、範疇変化の環境要因としてプロファイルのシフトが関与する可能性について調査する。また、指示性が範疇変化において果たす役割との関連で、ある一定の類の形容詞による名詞修飾表現に見られる指示の変更の現象を取り上げる。当該の表現にみられる名詞句全体の意味計算において統語的主要部を占める名詞が果たす役割についての分析をすすめ、名詞句全体の指示対象の変更を、名詞主要部の指示性の観点から分析する可能性を追求する。さらに、関連する現象として、意味的な平行性にもかかわらず英語と日本語では統語形式に違いが見られる表現について、意味の統語的具現の観点から対照的研究を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、英語を主な研究対象とした統語論、意味論の文献研究が中心になっており、研究計画遂行のためには、指示に関する分析を中心とした意味論分野の文献や形態論分野の文献の充実に加えて、文法化を含む言語変化の文献をさらに整備する必要がある。そのため、設備備品費は基本的にこれらの資料の充実に充てる。 国内旅費は、日本英語学会、日本言語学会などの国内学会に参加し、資料・情報の収集等を行うための旅費に充てる。
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