本研究は、英語を中心にイディオム表現や名詞修飾表現などを取り上げ、名詞がある一定の環境において本来的な名詞としての特性を喪失するとともに、一方で新たな特性を帯びる現象を主な研究対象とする。本研究の目的は、統語構造と意味との対応関係を語彙認可アプローチに基づいて分析することにより、範疇変化のメカニズムを解明することである。語の範疇とその特性変化を、統語特性のみ、または意味特性のみの観点からとらえるのではなく、統語と意味の対応関係というインターフェースの問題としてとらえ直す点で、従来の統語的アプローチ、意味的・機能的アプローチとは異なる新たな分析方法を示している。 平成26年度は、疑似部分構造と形容詞的名詞構文の分析を通じて、名詞の範疇変化に際して観察される中間的特性が、構文を構成する複数の要因が独立に変化することの相互作用の結果として捉えられることを明らかにした。疑似部分構造においては、名詞が語彙的内容を保持しつつ機能範疇である数量詞として機能することが、語彙範疇と機能範疇の二分法に対して問題となる。また、形容詞的名詞構文においては、いずれも語彙範疇である形容詞と名詞との間で相互に異なる中間的特性を示す要素が観察されるが、範疇の中間的特性にみられるそのような段階性は、統語素性に基づく分析では十分にとらえることができない。本研究では、それぞれの構文における中間的特性を示す要素の存在と、そのような要素の間にみられる連続的段階性は、範疇変化を相互に独立した個別的な特性変化の総体とみなすことにより説明することができることを示した。
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