本研究は、英語と日本語におけるevery boyや「本を3冊」などの数量を表す名詞句(以下,数量詞句)の統語構造と、意味・談話的特性,作用域特性との関係について、生成統語論の観点から分析を行った。具体的には、(A) 上記3つの要因がどのように関係しているか,(B) 異なる構造を持つ数量詞句が、統語構造上どのように異なる振る舞いを示すか,という問いに答えることを目指した。 その結果,平成24~25年度においては,(A)に関して,数量詞句内での数量詞の位置と数量詞句の意味的特性に密接な関係が認められるものの,数量詞句の作用域を決定するのは数量詞の位置であること,日本語における数量詞句の構造が,2種類ある「かき混ぜ(scrambling)」の適用のされ方を決定する要因であることを明らかにした。最終年度の平成26年度においては,以上を発展させ,数量詞句の作用域の取り方の違いを,数量詞句の構造的な違いによる「かき混ぜ」移動のしかたの違いという観点から説明した。例えば「3人の学生を」が広い作用域をとれるのに対して「学生を3人」がとれないという事実はこのことによって説明できる。さらに,この分析を英語に応用し,日本語の「かき混ぜ」に相当する移動が英語で不可視的に起こるとの仮定によって,英語における作用域の事実を説明した。数量詞句の作用域の研究において,数量詞句の内部構造の違いによる移動可能性の違いという観点はこれまでなかったものであり,数量詞句の研究において貢献度が高いと言える。 以上の研究は,文献・ジャーナルによる先行研究のサーベイおよび国内学会等での情報収集によって行った。 研究成果は,Homma (2015) "QP Scope in English and Scrambling" (『言語の普遍性と個別性』)等,計5編の研究論文,および科研費報告書(2015年)の形で発表した。
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