平成26年度は、まず、日本語の連濁生起の予測可能性に関する研究を行った。例えば、「あいかぎ(合鍵)」が「あいがぎ」とならないことは、後半要素に(「ぎ」の/g/のように)すでに有声阻害音が含まれているので、同類音の連続を避けるためと説明されてきた。また、「やまかわ(山と川の意)」のように2つの要素が並列されている場合にも連濁は阻止される。しかしながら、「くろふね(黒船)」のように、後半要素に有声阻害音が含まれたり、並列構造であったりするわけではないのに、連濁しない例も多く見つかる。そこで、先行研究の提案・分析だけでは連濁の有無が説明できない例を、国立国語研究所の「日本語レキシコン――連濁事典の編纂」プロジェクトの一環として構築されたデータベースの中から抽出した。そして、後半要素と前半要素の両方の音素、モーラ数、アクセントなどの音韻情報に基づけば、連濁生起の予測が可能であるという仮説を立て、統計的機械学習の分野の標準的な手法であるサポートベクターマシンを用いて、検証を行った。その結果、後半要素の情報だけでなく、前半要素の情報も合わせることで、連濁生起を正しく予測できる割合が大きく増えることを証明できた。 次に、複合名詞のアクセントと連濁の相関関係について、無意味語を用いた実験も交えながら、研究した。従来の研究では、特に固有名詞の場合に、アクセントと連濁の両方ではなく、どちらか一方が生じればよいという組み合わせになっていることが指摘されてきた(例えば、「柴田」は「し」にアクセントがあって「た」が連濁しないが、「今田」はアクセントがなくて「た」が連濁する)。しかしながら、普通名詞や無意味語の場合には、アクセントと連濁の間にそのような関係が認められないことを明らかにした。 これ以外に、日英語の複合名詞のアクセント型の適切な説明のためには、どのような文法モデルが必要であるかを考察した。
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