研究課題/領域番号 |
24520557
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研究機関 | 南山大学短期大学部 |
研究代表者 |
石崎 保明 南山大学短期大学部, 英語科, 准教授 (30367859)
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キーワード | 英語史 / 認知言語学 / 用法基盤モデル / 構文文法 |
研究概要 |
本研究課題の目的は、前置詞句をその構成要素に含む文法構文の歴史的発達の実態について、その社会的、文化的、および文献学的な背景なども考慮しながら調査し、それらの歴史的発達過程を、認知言語学で広く採用されているものの言語の通時的発達の説明理論として応用されることの少なかった構文文法理論(Construction Grammar Theory)の観点から説明を試みることによって、歴史言語学における言語変化を扱う諸理論に対する実証的かつ理論的な貢献を図ることである。 本研究は、現代英語における前置詞句を含む文法構文の歴史的発達に対する実証研究と、構文文法理論に基づく理論的研究に大別され、今年度はway構文に焦点を絞って考察を行った。実証的研究としては、[動詞 + one's way + 方向を表す前置詞句]の構造をもつway構文の歴史的発達を、Early English Books Online (EEBO)やCorpus of Historical American English (COHA)といった大規模電子コ-パスを中心に調査した。理論的研究においては、構文文法理論を歴史研究に応用する際の問題点を踏まえながら、用法基盤モデルに基づく新たな言語モデルを提案した。 今年度に行った研究内容は、中野弘三・田中智之編『言語変化』(開拓社)およびIVY46号(名古屋大学英文学会)で論文が掲載されたほか、イタリアのUniversity of Bergamoで開催された後期近代英語に関する国際会議(5th International Conference on Late Modern English)において口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、イギリスで出版された書籍を集めたEarly English Books Online(EEBO)とアメリカの文学作品を集めたCorpus of Historical American English(COHA)という2つの大規模電子コーパスを中心にway構文の用例を採取した。今年度の前半は、上記言語資料を用いて、[動詞+ their way+方向を表す前置詞句]の構造を持つ用例を調査しての予備研究を行い、1編の論文と1件の研究発表としてまとめることができた。今年度の後半は、研究対象を、their以外の所有格を含むway構文にも拡げて調査を開始したが、用例が膨大であり、かつ、文脈を確認しながらの調査であるため、その資料収集・整理と論文執筆に多くの時間を費やすことになった。今年度中に行った調査の結果、予備研究の中で得られた予測と同様の結論を得ることができたため、研究内容の大幅な研究計画の修正を必要としないという意味で順調に進展しているといえる。他方、当初の予定では、way構文以外の前置詞を含む表現の歴史的発達に対して今年度中に調査を開始したいと考えていたが、その段階にまでは至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
Way構文の歴史的発達とその構文文法理論に基づく説明については、今年度に行った研究により、ある程度の成果の見通しが立ったため、今後は動能構文など前置詞を含む他の言語表現の歴史的発達に対する調査を本格的に開始する。具体的には、古英語期に残存していた前置詞の後に置かれる名詞の格の分布を念頭に、英語史における前置詞句を含む言語表現の歴史的発達の中を調査し、その構文化へのプロセスを構文文法理論に基づいて考察していく。言語資料の収集に際しては、その進展に応じて、調査の対象とするコロケーションのタイプや年代、さらにはテキストタイプを絞って研究を進めていくことも考えている。コロケーションのタイプについては、前置詞句やそれと共起する動詞(句)、年代については近代英語期における分布、テキストタイプについては日記や私的な書簡集、にそれぞれ調査範囲を絞ることで、研究期間中に対象とする言語表現の発達過程が鳥瞰できるような成果が得られるよう、研究を進めていくことを考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は、資料収集および学会発表を行うための海外出張旅費として助成金を使用したが、資料収集と確認のために相応の滞在日数が必要とされたことや、為替の大幅な変動もあり、当初予想していたよりも高額になり、その分、助成金による物品の購入を控えることにした。他方、今年度は2件の論文執筆を考えており、うち1件の作成にかかる費用については、今年度前半に支出したものの、あと1件の論文については、資料収集とその整理に膨大な時間を要したため、年度末に論文としてまとめることができなかった。その結果、その論文作成にかかかる費用を助成金の中から支出することができなかった。 本研究では言語資料の精査が重要であり、用例の採取はもとより、その用例を支える時代的・文化的背景を踏まえて調査する必要がある。このため、電子化された言語資料を収録する大規模データベースの利用とその言語資料を原典にて確認を行う必要性から、国内外の図書館あるいは大学等への出張旅費を確保する。次年度の秋には、日本英語学会第32回大会シンポジウムの講師を務めることが決まっており(題目:「言語変化に対する多角的アプローチ」)、ここでの口頭発表をこの研究費支出に伴う成果の一部としたい。また、次年度は本研究採択期間の最終年度に当たることから、今年度作成した論文のための費用に加えて、2014年度中に行う研究内容の成果を年度内に論文としてまとめることを考えており、そのために必要な費用の支出に充てたいと考えている。
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