研究実績の概要 |
本年度は,日本語における連体修飾句・節と主節の論理関係について考察した。奥津(2007)は,「制限的連体」と目的・理由構文,「非制限的連体」と条件構文の対応関係を指摘している。例えば,‘塩辛い漬け物は健康によくない’において,連体成分が非制限的用法の場合には主節に対して理由の解釈が生じ(‘漬け物は塩辛いから健康によくない’),連体成分が制限用法の場合には主節に対して条件の解釈が生じる(‘漬け物は塩辛いと健康によくない’)。上記の例において,理由解釈と条件解釈の違いは連体成分の制限機能に帰される。これは英語関係節の場合と並行的である。すなわち,制限的関係節は主節に対して条件を表し(Snakes that are poisonous are dangerous),非制限的関係節は主節に対して理由を表す(Whales, which have lungs instead of gills, cannot breathe under water)。 日本語の数量詞遊離文では,連体成分が主節事態の結果を表す場合に数量詞遊離文の容認性が低下する(‘?*山田は[その後の人生を一変させる]本を1冊買った’[ ]は連体修飾節)。ただし,同様な因果関係であっても連体修飾節が総称的名詞句にかかる場合は容認される(‘山田は[飲むと悪酔いする]酒を1本飲んだ’)。両文の違いは,連体成分の時間的な特定性の違いだと考えられる。すなわち,‘その後の人生を一変させる本’は指示詞ソノが主節事態の発生時を受けるため,時間的に特定的な事態を指すが,‘飲むと悪酔いする酒’は主節事態から独立した非特的(=タイプ的)な事態を指す。数量詞遊離文では先行詞はタイプ解釈(非指示的解釈)を受けると考えられる(‘その本を2冊買った’では‘その本’は非指示的)。したがって,タイプ解釈を受けられない‘その後の人生を一変させる本’が数量詞遊離文と整合しない。
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