1 調査1 上海語・潮州語・台湾閔南語話者の方言使用インタビュー: 方言をどのように使用するか、漢字語を見て方言の発音ができるかどうかの調査を実施した。方言使用が日常会話に限られる場合は方言音で読める漢字語も限られる。一方、学校でもよく使っていた場合は、入声・非入声が類推可能な程度に広範囲の漢字語の発音ができた。 2 調査2 現代北京音から見た日本語漢字音: 常用漢字と北京音の字音対照表を完成させた。北京音では母音終わりの字が全体の6割強を占めるが、日本語で2拍目がキクチツの字(約16%)もこれに含まれ、1拍字、及び2拍目がイウの字と見分けにくい(例:li4 利、例、歴、力、立、粒)。一方、非入声の韻尾-ng、-nを持つ字(4割弱)は入声由来の字とは紛らわしくない(例:ling 令、陵、領、lin 林、隣、臨)。 3 教材作成・試用(音符の活用): 漢字の同形要素を活用し、既習字音から未習字音を類推、かつ入声・非入声を識別する教材を作成・試用した。「低」から「邸」、「適」から「滴」の字音が割り出せるのは、それぞれに共通する同形要素が音符として機能しているからである。中国語母語話者には、中国語の標準語では見分けのつかない「滴・敵」と「低・底」(いずれもdi)が日本字音では「テキ」と「テイ」に分かれることを確認する機会ともなる。音符として生産性の高い227の同形要素とその要素を持つ漢字816字を抽出し、古い中国語音(入声韻尾)を体系的に維持している韓国語音や一定の対応を持つ方言字音と対照できるようにした。試用では、学習者は、「次第に」から「諮問」の「諮」、「紫外線」から「雌雄」の「雌」等を類推することができた。が、語例に既知語がない場合、中国語音からの類推も見られた。なお、入声音を反映する方言がかなり使える学習者でも、方言字音との対応に気づかず、活用していないことがわかった。
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