日本語教育の分野では、語用論的能力の重要性は認められているものの、初級、初中級で扱われている発話行為は限られている。また、日本語学習者を対象とした発話行為研究は、「依頼」、「勧誘」、「断り」、「謝罪」に集中し、他の発話行為はあまり対象とされていない。そこで、本研究では、日本語の語用論的能力を育成する教材開発や評価システムの構築を目指し、談話完成テストを用いて日本語学習者の語用論的能力の習得と使用状況を明らかにすること、そして、日本語の発話行為に関する基礎的なデータベースを構築することを目的とした。 本研究では、まず談話完成テストというアンケートの項目の要因操作と先行研究における項目の分布による結果の違いなどについて文献調査を行った。これを基にアンケート項目を作成し、英語に翻訳した。そして、米国で日本語を勉強する初級、中級、上級英語母語話者を対象にアンケート調査を行った。アンケート項目と回答をデータベース化し、発話行為のタイプ、場面、親疎・上下関係、発話行為の必要性などについてコードを付加した。また、誤解場面についてはロールプレイタスクを行い、アンケートとの整合性について分析した。その結果、先行研究で扱われている「依頼」「勧誘」「断り」「謝罪」に関するアンケート項目60項目、あまり研究のない「文句」「交渉」「反対意見の表明」「誤解の釈明」について自作の60項目、計120項目からなるデータベースを作成した。また、特に先行研究ではあまり扱われていない誤解場面については、発話行為を超えた談話分析が必要であることを確認した。さらに、初級の教材開発において、より積極的に発話行為を取り入れること、特に、社会語用論的知識については、初級でも指導可能であること、言語語用論的知識については、初級からの段階的指導も可能であることがわかった。
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