研究課題/領域番号 |
24520585
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研究機関 | 桜美林大学 |
研究代表者 |
佐々木 倫子 桜美林大学, 言語学系, 教授 (80178665)
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キーワード | ろう児 / 書記日本語教育 / マルチリテラシーズ / マイノリティ |
研究概要 |
今年度は以下の3点を中心に研究を進めた。 (1)マルチリテラシーズに関する先行研究の探索および整理 ニューロンドングループの提唱によるマルチリテラシーズ教育、その後の脱構築の主張の加わり、そして、現在の主流といっても良いような教育観の形成までをある程度追い、整理することはできたかと思う。ただし、教育機器の発達による新たな学びの形という点では実態を十分に把握し、分析したとは言い難い。社会の格差化の進行とリテラシーの多様化にも、現状では十分な把握ができているとは言えない。 (2)ろう教育におけるマルチリテラシーズを超えて、実生活におけるろう者のマルチリテラシーズの把握を試みた。世界最大のろう教会である、韓国ソウルにある永楽ろう教会の信者の助力を得て、永楽ろう教会夏季修養会、および、通常の日曜礼拝での参与観察が許可された。夏季修養会は全行程参加し、日曜礼拝は8月、11月、2014年3月の計3回参加した。そこでは日本で訪ねたろう教会とは異なる機器の運用によるマルチモーダルなコミュニケーションが行われていることを観察した。 (3)2013年度に多くの時間と労力を費やしたのが、ろう者をはじめとする障害者のマルチリテラシーおよび社会参加に関する論考のまとめと出版である。『マイノリティの社会参加 ―障害者と多様なリテラシー』(くろしお出版)で、対象としたのは、ろう者のリテラシーが中心だが、そのほかに、ディスレクシア、ロービジョン、そして、日本人著者だけでなく、米国人、オーストラリア人著者なども得て、リテラシーの多様性を感じさせる本作りを心がけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もっとも大きな目標であったリテラシーの多様性に関するまとめは完成することができた。(刊行日は2014年4月2日となっているが、実際の完成・発売開始日は2014年3月15日)ただ、理論面の研究に関して先行研究の探索をある程度進め、報告にまとめて、発表することができたが、まだ満足できる深さはそなえていない。また、現代の教育機器等ITテクノロジーの発達による、ろう児たちの学びの変容は携帯電話の利用という限られた領域以外は十分には把握していない。マルチリテラシーズ概念とろう児の書記日本語教育を、いちおう結びつけた程度といって良い。 ろう学校での参与観察は、公立ろう学校に関してはこれまでの観察機会に得た情報とそれほど大きくは変わらないと考え、2013年度には中止した。むしろ、実社会に出てからのリテラシーの実態を見るため、ろうコミュニティーとして世界でもっとも大規模なろう教会とされる、韓国ろう教会の夏季修養会2泊3日の全行程参加と、日曜礼拝に3度参加した。韓国語も韓国手話もまったく出来ないため、言語以外の部分の観察、ないしは、手話・韓国語通訳を通しての理解となったが、それなりの知見を得ることができた。また、韓国の公立ろう学校、および、1私立大学の訪問から、日本よりもテクノロジー重視、手話軽視の傾向を感じたが、観察対象の数が限られているので断言はできない。試行的調査に過ぎない段階である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる本年度は以下の3点を重視したい。 (1)先行研究のさらなる探索・分析 現段階では秋の学会大会において、ろう児のリテラシー育成をテーマに、先行研究の分析と今後の動向をまとめ、学会発表をおこないたいと考えている。 (2)教育機器等テクノロジーの発達が教材・教具・カリキュラムに及ぼす影響についての分析とそのまとめ。 (3)ろう児の書記日本語教育の現状分析に基づき、今後の教育展開への示唆をまとめる。 昨年度の成果では、現状の課題を記述し分析する点は達成したが、課題にどう対応するか、あるべき教育の姿はどのようなものかの分析、まとめは不十分であったので、2014年度は教育への応用研究を進める。研究協力校における、カリキュラム開発、教材開発のまとめをおこなうことと、まとめの広い範囲のろう教育分野への普及に寄与することを今年度の最重要課題と位置づけたい。2013年度に予定しながら達成できなかった、米国ギャローデット大学の教材開発分野の訪問調査・研究者との情報交換などを、できれば実現し、出版内容のより充実をはかり、年度内に刊行したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年8月に予定していた、米国ギャローデット大学での情報交換、情報収集の予定が時間的制約から実現できなかったため。 2014年度の成果出版に要する費用に加算する。ただし、余裕があれば、2014年9月のギャローデット大学における研究者との情報交換を改めて計画する。
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