本研究は、ろう児に対する書記日本語教育のあり方を再検討するものである。日本手話を基盤とし、書記日本語とあわせて2言語を授業/学習言語として駆使する教育実践に新しい方向性を見出すことを目的とする。出発点としては、国内のろう教育の流れと現状の整理を踏まえた上で、1990年代後半のニューロンドングループ提唱によるマルチリテラシーズの概念を取りあげた。概念の整理、その後の脱構築の主張などの加わり、さらなる多様なリテラシー研究の成果を含めた上で、ろう教育のあり方との関係を明確化し、現状に対して新たな提案をすることを目的とした。その結果、5件の論文等、8件の学会/研究会発表、5件の図書において、以下の研究実績をまとめ、発信した。 (1)ろう児・者の置かれた社会的状況、日本におけるろう教育の流れ、マルチリテラシーズ分野における先行研究の文献的探索・整理をおこない、その骨子をまとめ出版した。 (2)従来のろう教育における読み書き教育の偏重を踏まえた上で、研究協力校において、日本手話と書記日本語を授業言語とする授業を観察・分析した。そこでは、ろう児たちが読み書きに留まらないリテラシーを手段として、ヴィジュアル・リテラシー、批判的リテラシーなどを育てつつある現状が観察された。 (3)研究協力校において、多様なリテラシーを意識的に取り入れた教授方法のひとつである、携帯メールプロジェクト等を提案し、試行し、その結果をまとめた。 (4)国内におけるろう教育の現状が抱える困難点と照らしあわせて、ろう教育において先進的な部分を持つ、オーストラリアのろう学校での調査結果から得られた示唆をまとめた。さらに、トランスランゲージング理論を取り入れた教育実践を中心に、今後のろう教育の方向性をまとめた。
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