研究課題/領域番号 |
24520594
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
山本 雅代 関西学院大学, 国際学部, 教授 (40230586)
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キーワード | バイリンガル / 受容能力 / 受容バイリンガル / 言語使用 / 言語発達 / 非優勢言語 |
研究概要 |
本研究は産出能力間に格差のある「受容バイリンガル」の女児を対象に、その非優勢な言語の量的・質的特性を明らかにしようとするものである。本年度の研究課題と結果は以下の通り。 1. 量的にどの程度の発話があるのか:(1) 受容バイリンガルを対象とした研究では原理上、非優勢言語の産出量の漸減現象が予測されるが、それが確認された。1回目 (#1) の採録(2008.4.14/3;0)では、女児の分析データ全体に占める非優勢言語 (日本語) 使用の比率は42.5%、65回目 (#65) (2013.12.6/8;8) では2.2%と大幅に減少。この日本語使用の減少は、母親にも実感されており、面談で繰り返し言及されてきた;(2) (1) の現象、また母親の実感が母親自身の言語使用にも大きな影響を及ぼしていることが明らかとなった。#1のデータでは母親が女児との会話の中で女児の優勢言語(英語)を使用することは希で、分析データ全体に占める比率は3.1%であったが、#65では46.2%にも上っていた。これらの結果から、受容バイリンガルの場合、その非優勢言語の使用が経年に伴い、減少するのみならず、当該言語の主入力源である対話者の発話においても相対的に減少することが明らかになった。 2. 質的にどのような特徴がみられるのか:実験結果から、経年に伴い (2009.9~2013.6)、当該女児の非優勢言語の文法力低下が明らかになった (2009年-正解率が67%、2013年-50%)。経年比較の基点である2009年の正解率の低さは、発達途上にある女児の年齢相応の文法力の発達レベルを示すものとも考えられるが、対照児としてデータを採録している別のバイリンガル男児 (女児より8ヶ月年下) が2009年の同時期に、正解率100%を得ていることから、当該女児の日本語の文法力が年齢相応に発達していないことが覗える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
とりわけ、質的側面からの研究(質的にどのような特徴が見られるのか)の進捗が遅い。それは、言語分析を行うための材料である発話データの入手が難しいためである。既述のように、受容バイリンガルを対象とした研究では原理上、言語の産出がきわめて少なく、たとえば、文法的な発達がどの程度進んでいるのかを見いだすのに、産出された発話データを分析することが困難であるため、どの程度理解できるのかという受容能力の発達を通して、その文法能力の発達の度合いを推測することになる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も、量的な側面からの研究については、従来のデータ収集・分析の方法を踏襲する予定であるが、今年度、明らかになった日本語の主要な話者(入力の源泉)である母親の言語使用 -- 英語使用の増加と日本語使用の減少 -- という点についても十分に留意しながら、データの分析を行い、受容バイリンガルの言語環境についての考察を深めたい。 質的な側面からの研究については、分析するための発話データの入手がほとんど得られなくなっている状況を鑑みて、すでに経年経過をみるために2度にわたり行った実験を継続して行うと共に、その他の実験も加えるなどし、さらに多くの受容レベルでの文法能力や意味論・語用論的理解力などの分析ができるようなデータ収集の方法を工夫する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じたのは各費目において余剰が出たためである。その大きな理由は、本研究の支出の中にドル建てのものが多く含まれているという事情があり、出費が為替レートの変動に応じて大きく変化する可能性が高いため、円ドルの為替レートが大幅に上昇した場合にも対応できるように余裕をもった予算を計上したためである。事実、当年度6月出張時のドル購入レートは前年度の同時期出張時のそれを16円近く上回った。 H26年4月からの消費税の増税、それに伴う種々の物品やサービス料の値上がり、さらに現在 (H26年4月) の円ドルの為替レートが当年度 (H25年度) の同時期よりもさらに高くなっているが、次年度の使用計画は、原則、当年度のそれを踏襲したいと考えている。具体的には、主に以下のような費用の支出に充当する。 1. 研究対象の女児と母親(および対照児の男児と母親)との面談調査実施のための調査地ハワイへの旅費・調査費、2. 親子の対話データの定期的採録に係る謝金、3. 採録されたデータの文字起こしに係る費用
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