研究課題/領域番号 |
24520594
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
山本 雅代 関西学院大学, 国際学部, 教授 (40230586)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | バイリンガリズム / 受容バイリンガル / 言語使用 / 言語発達 / 日本語 / 英語 / ハワイ |
研究実績の概要 |
本年度も、研究の目的、方法は、原則、前年度、前々年度を踏襲したものであったが、 (1) 経年変化(バイリンガル児への日本語の入力源である母親の言語使用の変化)に傾注しながらデータの整理、分析を行った。<結果> その変化は数的に明確に現れており、各年度のほぼ同時期における母親の日本語使用の割合を比較すると、多少の凸凹はあるが、年々減少しており、日本語の単独使用が初年度 (#1) で96.9%であったものが、平成26年度の最新データ (#76) では48.5%とほぼ半減している。これに呼応して英語の使用が増え、単独での使用が#1で0%、#76では 20.5%に、日本語との併用でも#1で3.2%、#76では31.0%にと大幅な増加となっている。 (2) 日本語使用がさらに減少しているバイリンガル児の受容レベルにおける日本語の文法能力の有り様を測定した。<結果> 格助詞の違いに応じた文意の違いを判断できるか否かを見る10問からなる簡易なテストを、平成21年度 (正解率40%)、25年度(50%)に続き、今回3回目として26年度 (50%) に実施したが、どの回も正解率がほぼ50%であり、経年変化がほとんど見られないことから、初回の段階で格助詞の違いと文意の違いとの関係を理解するだけの文法能力を発達させておらず、その後も発達させる機会が得られなかったものと推察される。 (3) (1) で見た通り、母親の言語使用における量的変化が著しいことから、母親を対象に、自身の言語使用について聞き取りを行った。<結果> 自身の子どもへの言語使用に関して、日本語の使用が減少し、英語の使用が増えていることを明確に自覚しており、それがために、子どもの日本語能力の発達が十分に進まなくなることを懸念しているが、日常の生活の中で英語が占める領域が広く、日本語の使用を増やすのは困難と感じているようすが語られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、当初、ハワイ在住の英語―日本語家族に生まれ育った、2言語間の能力の間に差が際立つ受容バイリンガルを対象者として、その非優勢言語における言語混合の機能を解明することで、これまでほとんど研究の対象とならなかった受容バイリンガルの言語発達(後退)の過程を明らかにすることを主目的としていたが、その後、一定の結果をみたものの、近年では、非優勢言語の発話がほとんどデータに現れて来ず、ほぼ全面的に優勢言語のみが使用される状況となった。そうした状況の中、この受容バイリンガル児の言語使用の変化に伴い、母親の言語使用にも顕著な変化が観察されるようになった。 経年に伴う状況の変化を受けて、近年では、受容バイリンガルの言語発達をとらえる研究枠組みを、たとえば言語混合の機能を明らかにする、ある特定の文法項目の発達状況を見るというような局所的なそれに留めるのではなく、より広範で総合的に全体をとらえることができるような大局的なそれへと拡大し、またその質的組み替えを試行しつつある。今年度、母親の言語使用の経年変化に傾注したのも、その組み替えの試行の一環であった。 言語の使用、言語能力の発達という現象は、そもそも動的なものであり、経年変化は当然のことである。そうした研究対象の動的特質を理解し、その変化に適切に対応できるように、研究の枠組みの再考も不可欠である。そのような作業にも時間を費やす必要が生じたことから、研究全体の進行がやや緩徐となった。 しかしながら、このことは、これまで研究の難しさからほとんど研究が行われてこなかった、とりわけ長期にわたる縦断的研究が尠少な受容バイリンガルの言語発達研究の今後の進展に貢献しうる貴重で不可欠な「遠回り」であったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究の対象である受容バイリンガル児について、非優勢言語である日本語による発話がほぼ皆無である現在、発話データを用いて、言語混合の機能を明らかにしたり、文法項目の発達を追跡したりすることは極めて困難な状況となっていることから、その受容能力、すなわち日本語の理解力の度合いを、テスト(従来の簡易なテストに加えて、新たに項目を追加した拡大テストを作成することを検討中である)を用いて測定するなどの工夫を講じたい。 さらに、【現在までの達成度】で既述した通り、現在、試行中のより大局的な研究枠組みを用いて、バイリンガル児の言語(受容能力の)発達のみならず、その発達に影響を及ぼす日本語の源泉である母親の言語使用の有り様(量的側面)、また自身の言語使用に対する思い(質的側面)などにも傾注したデータ収集、分析、考察を行う。 そして、1年の延長が認められた平成27年度には、ここまでの研究の総まとめを行いたいと考えている。 なお、同バイリンガル児を対象とした同課題で、新たな基盤研究(C)(一般)が採択された(内定段階)ことから、この後、平成27年度~29年度にかけて、さらに3年にわたる研究の続行が可能になった。平成29年度の最終年度には、通算10年にわたる縦断研究ということになる。この後も、継続して、データの収集に努め、分析、考察を進め、この10年に及ぶ当研究の総まとめを行うと共に、尠少な受容バイリンガルの言語発達研究の一つの研究モデルを提供し、その発展に寄与したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度秋にハワイ州へ2回目の調査出張を予定していたが、所属機関の留学制度によりハワイ州での在外研究の機会を得た。そのため、ハワイへの旅費を科研費から支出する必要がなくなり、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
これまで長期にわたるデータ収集および分析を行ってきた調査対象家族の言語使用の様態に、重要な変化が生じていることが観察されるようになった。その変化についての分析・考察を行うため、未使用額をデータの定期的採録に係る謝金や採録データの文字起こしに係る経費等に充てることとしたい。
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