研究課題/領域番号 |
24520652
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
田口 悦男 大東文化大学, 外国語学部, 教授 (60255974)
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研究分担者 |
神田 明延 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (10234155)
大須賀 直子 明治大学, 国際日本学部, 准教授 (40514162)
メイス みよ子 聖学院大学, 基礎総合教育部, 特任講師 (10364829)
佐藤 明可 成蹊大学, 国際教育センター, 常勤講師 (50468617)
竹村 雅史 北星学園大学短期大学部, 短期大学部, 教授 (60353215)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 第二言語による読み / 読みの流暢さ / 自動化理論 / 繰り返し読み / 国際情報交換 / アメリカ合衆国 |
研究概要 |
本プロジェクトの目的は、自動化理論(LaBerge & Samuels, 1974; Samuels, 1994)を教育実践に応用した繰り返し読みの効果をe-Learningシステムの特性を活用し、検証することである。 2012(平成24)年度の主な研究実績としては、アメリカのGuilford Press社より刊行された専門書”Fluency Instruction (2nd edition)”において外国語による読みの流暢さに関する第16章を執筆した。本書は読みの理論と教育に関する専門家が執筆を担当しており、長年の共同研究者であるテキサス工科大学のGreta Gorsuch教授と共に、外国語による読みの流暢さに関する研究の概観と今後の方向性を展望論文にまとめた。また、2012年度日本e-Learning学会学術講演会において、5人の分担研究者と共に発表した論文「第二言語の読みにおける流暢さの検証―e-Learningの活用による教材共有化の試み―」に、日本e-Learning学会より優秀賞を授与された。 2012年度には、教材コンテンツを編集し、e-Learning教材化することを目標とした。作業としては、1) 繰り返し読みのセッションのために、一つのストーリーを25回に区切る、2) テキストに関する読み手の支援情報を作成・編集する、3) 富士通ラーニングメディア社の技術支援のもとにプログラミングを行った。読み手の支援情報としては、(a) 繰り返し読んでも不明のまま残った箇所、読み違いをした箇所について確認できるためのフィードバックの機会を与える、 (b) 理解を促進するために、テキスト理解に関わる語彙・文法・背景知識(登場人物の関係、ストーリーの場面、テキスト中の事物に関する知識)等の情報を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012(平成24)年度の到達目標はe-Learning教材化を図ることであり、1) テキスト使用の版権許諾を得た”The Missing Madonna”をe-Learning教材として使用するために編集し、2) IT企業の富士通ラーニングメディア社の技術支援を得てe-Learning教材化するという作業を進めた。平成24年度末までにテスト・セットの組み込みの部分を除き、ほぼ予定通りに作業は進行している。e-Learning教材化に伴い、本Web型繰り返し読みのプログラムでは管理者である研究者や教員が目的に応じて自由に設定できる機能が用意されている。具体的には、a) 繰り返し読む回数を自由に設定できる、b) 学習者からのコメントに関する内容を指定できる、c) 多様な外国語に対応できるという3つの機能がある。a)の繰り返しの回数の設定は、繰り返し読みを効果的に実施するために考慮すべき要因の一つである。テキストを繰り返し読むことでその情報処理がより速く、正確に、そして深くなり、その結果、読みの黙読(音読)速度が増し、同時に理解度が向上する。一方で、過度な繰り返しにより飽きがきて、モチベーションが弱まるという弊害も見られる。どの程度の繰り返しが最も効果的であるかは今後の検証課題である。b)のコメントに関する内容を管理者側で指定できる点については、これまで黙読速度や理解度テストの量的データからは見ることのできない学習者に関する有益な情報が得られており、予めいくつかのコメント項目を管理者が指定しておく方がデータ収集の観点から有益である。c)の本プログラムの公開については、本Web型RRプログラムは基本的な開発エンジン部分はどの外国語にも対応できるようになっているので、より多くの研究者や教員の使用に供するように、本ウェブ型教材を有用な研究ツールとして進化させ、公開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本ウェブ型教材の最終開発段階として、テスト作成を行っている。e-Learningシステムを活用し、繰り返し読みにおいて、同じ文章を繰り返し読むことによる練習効果が、新しい文章を読む場合に転移するかどうかという未解明の問題を検証するために、複数のテストから構成されるテストを作成中である。処遇の効果を測定するためには、検証の困難な微小な効果をも測定可能な感度の異なるテストを含む数種類のテストを作成する必要がある。テストは、1) 学習者と教材とのマッチング効果を見るためのプレースメント・テスト、2) 処遇の効果を見るためのテスト(事前テスト、事後テスト、遅延テスト)の2種類のテストを現在作成中である。テスト作成にあたっては英語教育を専門とし、テスト作成経験の豊富な英語母語話者に依頼し、既にテストは作成済みである。今後はテストの信頼性、妥当性を高めるために検証作業を行い、より信頼性の高いテストに仕上げて本ウェブ型教材に組み込む。 本格的なデータ収集の前に、本ウェブ型教材のプログラムの最終確認を行う。小規模のサンプル数で予備研究を行うことでプログラムのバグやシステムの動作確認を行い、また、繰り返し読みの手順、そして収集されるデータが予測通りのデータになっているかどうかも併せて確認を行う。その後、2013年度の後半に3カ月から4カ月程度の期間で本格的なデータ収集を行う予定である。将来的には、本ウェブ教材を他の外国語教育の研究者や教員の使用に供するために研究ツールとして公開する予定である。それにより多様な外国語分野の協力により第二言語習得のメカニズムの解明につながることが期待される。 次年度使用額の63,912円については、論文執筆に係る図書発注が遅れたこと、また、テスト作成の謝金支払いが予算不足により執行できなかったことによる。次年度の予算と合わせて執行する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013(平成25)年度は本ウェブ型リーディング教材を稼働し、分担研究者と共に実験データの収集を行う。そのための2013年度の予算額は総額1,100,000円(内訳は物品費200,000円、旅費50,000円、人件費・謝金50,000円、その他800,000円)である。主な支出としては、「その他」の項目に該当する本ウェブ教材のプログラミングにあたる富士通ラーニングメディア社に対する技術支援料の支払い(500,000円)である。そして、研究遂行に必要な物品(ポータブル・ハードディスク、フラッシュメモリー等)を購入する物品費、国内学会参加のための旅費、そしてテスト作成や英文校正に係る謝金に使用する。 富士通ラーニングメディア社への技術支援料の内容は、1) 現在作成中のテスト一式(test battery)を組み込む、2) 試験運用期間のシステムの改善やバグの修正、3) 本格的なデータ収集に伴うシステム運用の管理や保守の料金である。これまで分担研究者を含め、富士通ラーニングメディア社とは何度も協議を重ねて、学習者と研究者や教員の双方にとって使いやすいシステムを目指してウェブ型教材の開発を進めている。本システムにおいては繰り返し読みだけでなく、外国語による多読教育にも対応する仕様となっており、また、今後の多様な外国語分野での使用も考慮し、エンジン部分を共通の仕様にしている。将来的には本ウェブ型繰り返し読み教材を公開する予定である。 5人の分担研究者にはそれぞれ物品費として20,000円、そして研究遂行に必要な経費として「その他」の項目で60,000円の計80,000円を配分している。これは分担研究者の担当する学生より本プロジェクトに係るデータ収集を行うためのものであり、また、論文執筆に係る複写や印刷費等の研究成果の公表に係る費用も含まれる。
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