本研究の目的は、日本人学習者が英語を使用する際の語用論的ストラテジーの特徴やその発達について、共時的および通時的の両面から探ることである。最終年度にあたる2014年度は、留学経験がpragmatic routinesの習得やpragmatic transferにどのような影響を与えるかを中心に研究をおこなった。 まず、pragmatic routinesの習得を調べるために、英語母語話者のデータから22のroutinesを抽出した。そして、日本人学生のroutines使用について、半年間の留学前と留学後にどのような変化があるかを調べた。その結果、留学を通じて統計的に有意に習得されたroutinesは、“Thank you so much”と “I really appreciate“の2つだけであった。routinesの習得の難しさは先行研究でもしばしば指摘されているが、今回の結果はそれを証明する形となった。日本人学生へのインタビューデータ等から、routinesの習得を阻む主な原因としては、インプットおよびアウトプットの不足に加え、既知表現への依存、母語からの転移、統語的複雑さ、社会語用論的な相違などが考えられた。 一方、pragmatic transferについては、英語母語話者のデータ、日本人学生の留学前・留学後の英語データ、日本語母語話者による日本語データを比較することによって調べた。その結果、母語からの転移はそれほど広範囲に起きてはいないこと、留学前と留学後を比較すると、留学後に母語転移が減少していること、ただし社会語用論的な転移は留学後も残りやすいことなどがわかった。 以上の研究結果については、研究の進捗に応じて、5つの国際学会において発表した。また、pragmatic routinesについては論文にまとめ、学会のproceedingsに投稿中である。
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