研究実績の概要 |
一般に、近代国際法はヨーロッパ社会を基盤として形成され、ヨーロッパ諸国の世界進出とともにその適用範囲を拡大していったとされる。この通説的な理解によれば、非ヨーロッパ諸国が、既成の近代国際法に加入し、そのことによって、それまで「ヨーロッパの国際法」でしかなかった近代国際法が「ヨーロッパの(European)」という限定を伴わない普遍的な法となったのだということになる。本研究では、19世紀の東アジアの国際関係に大きな変化をもたらしたヨーロッパ国際法を所与のものとしてではなく、それ自体が変化するものとして捉える点に発想の新しさがあった。さらに、本研究においては、申請者を含めて従来の国際法史関係者が見落としてきた帝政ロシアの役割を検討の対象に含めることで、19世紀の国際法の歴史の東アジアにおける諸文明の交流の歴史としての側面が明らかになり、より現実的で説得力のある国際法史の視座が拓くことを目指した。いまだに十分に調査が進まず、必ずしも所期の成果を上げたとは言えないが、Willams Butler, Russia and the Law of Nations in Historical Perspective (2009)などの先行研究が帝政ロシアにおける国際法言説がヨーロッパ諸国との関係においてのみ検討していたのに対して、本研究では視野が東アジア諸国との外交関係にまで広がり、帝政ロシアの国際法(jus gentium)観念を近代国際法のユーロセントリズムの展開過程のコンテクストの中で理解する方向に一歩踏み出すことができた。
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