研究課題/領域番号 |
24520730
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
前島 志保 法政大学, 経営学部, 准教授 (10535173)
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キーワード | 日本 / 英国 / 米国 / 出版史 / 読書文化 / 比較文化 / メディア / ジェンダー |
研究概要 |
今年度は、前年に行った予備調査を踏まえ、北米における調査・発表を中心に研究をすすめた。まず、前年度に行った英米における出版史研究、メディア研究、ジャーナリズム研究の先行研究の調査を元に、これまで行ってきた20世紀前半日本における雑誌メディアの発達の分析結果を再考察し、世界的な印刷メディアの発展史の中に位置づける試みを、20世紀メディア研究所における発表という形で公表した。 また、共同研究者として参加している国際的研究プロジェクトJournalism and the Japanese Newspaper in Japanese Studiesの一環として、日本におけるジャーナリズムの史的展開を出版・読書文化の大衆化現象の重要な一部分としてとらえ考察する作業にも着手し、Japan Studies Association of Canada (JSAC)で口頭発表を行った。この発表を元にさらに加筆した内容をまとめ論文集に収め出版すべく、現在作業を続けている。 さらに、米国ニューヨーク公共図書館(New York Public Library)および古書店において、主に20世紀初頭の新聞における図像(版画・図像)の扱いの変遷について調査を行った。校務との兼ね合いで当初予定していたよりも短期間の調査になったが、この調査結果との対比により前年度までに調査を行ってきた日本における同様の事例の考察がさらに深められた。この調査結果は、前年度の神奈川大学におけるシンポジウムでの発表を元にした論文集に収める論文に加筆する形で反映する予定である。 英米における19世紀末から20世紀前半を中心とした当該分野の先行研究の調査、および、「近代的な日常生活」の表象や言説に関する調査・考察も前年度に引き続き行い、Asian Studies Conference Japan (ASCJ)などで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はおおむね予定通り米国における調査を元にした研究を進めることができた。 具体的には、まず、前年度に行った英米における先行研究の調査結果を踏まえ、20世紀前半の日本における雑誌メディアの展開を再考察した。また、20世紀初頭米国ニューヨークの新聞における図像の扱いとその位置付けについての調査・考察および発表を行った。このように、20世紀前半の米国を中心とした視覚表象を用いた報道の展開と日本における同様の事例の対比考察については、かなり進めることができた。 さらに、20世紀前半の日本の定期刊行物における「近代的な日常生活」表象・言説に関する研究についても、英米における同様の事例との対比によって、少しずつ進めることができた。この点は、主に消費文化の展開と近代的家庭言説の展開を中心に、現在、比較調査・考察を進めている。 ただし、当初の予測に反して、英米日間の定期刊行物出版の直接的な関連性を問う類の比較研究よりも、類似点・相違点を比較し考察する類の比較研究が中心になった。しかし、このことから当該のテーマに対する理解がより深まったとも言える。つまり、この時期は直接・間接の(相互)関与が認められるか否かに関わらず、当該各国の定期刊行物において或る程度同様の大衆化現象の傾向が認められること自体に意味があることが明らかになりつつある。 さらに、先行研究の調査から、19世紀末から20世紀初めにかけての英米日における定期刊行物の大衆化現象は、より広くその前の時代における出版物の大衆化現象の延長として考える必要があることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、第一に、今年度に行った米国における調査と同様に、英国における史料の調査・考察を行っていきたい。具体的には、19世紀末から20世紀初めにかけての英国における定期刊行物の調査を行い、米国における状況の調査結果、さらにこれまで行ってきた日本における同様の事例の調査結果と対比することで、この時期における定期刊行物を中心とした出版の大衆化現象の一端を明らかにしていきたい。 今後は、これまでに行ってきた編集手法や営業手法の変遷の調査・考察に加えて、読書規範とジェンダーの関わりに関する比較研究も進める予定である。比較考察する過程でさらなる調査が必要と判明した場合は、英米日各国で必要な補足調査を行う。また、前年に引き続き、「近代的な日常生活」の表象や言説に関する調査・考察も並行して行っていく。 調査・考察の結果は、日本マス・コミュニケーション学会、日本出版学会、JSACなど国内外の学会で発表していくつもりである。さらに、より広く研究結果を公表し社会的に共有するためにも、日本語・英語で論文にまとめ、Japan Review, The Journal of Japanese Studies, Positionsなどの学術雑誌に投稿したり論文集(書籍)に収めたりする形で出版・刊行するように努めたい。 加えて、先行研究の調査から、19世紀末から20世紀初めにかけての定期刊行物の大衆化現象は、より広くその前の19世紀初頭前後における出版物の大衆化現象の延長として考える必要があることが判明した。この点について今後具体的に研究を進めていくためにも、余力がある場合には、上記三カ国のうちせめて一カ国については本年度中に先行研究の調査に着手しておきたいと考えている(今のところ日本のものに焦点を当てる予定)。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、初年度に行う予定であった英国での調査を第三年度に行うことに変更したため、次年度使用額が生じた。代わりに初年度は、英国における出版史研究 およびメディア研究、ジャーナリズム研究の先行研究を精査し、日本の事例と対比研究するにあたって必要な論点の割り出しを行った。こうした作業の結果、次年度以降の調査・分析の基盤が当初予定よりもより着実に固められた。 これに対して、第二年目にあたる本年度は、先行研究の精査を続けるとともに、米国における史料調査と分析を予定通り行うことができたので、本年度使用分額はほぼ予定通り使用することができた。つまり、初年度に実施を予定していた英国での調査が第三年目に変更されたため、次年度使用額が生じた。 第三年目は、主に英国における史料調査を行う。大英図書館(The British Library)、書店、古書店での資料調査を予定している。この旅費・滞在費・資料複写費・資料輸送費などに研究費を充てたい。他には、予定通り以下のような項目への使用を計画している。 第一に、英米における当該分野の先行研究の収集・調査である。こうした論文の複写や書籍の購入を予定している。第二に、日本国内での資料収集である。このための旅費や複写費、資料輸送費に充てたい。第三に、研究成果の国内外での発表、および国内外の学術誌への論文の投稿、論文集刊行のための論文執筆のための旅費や滞在費、参加費、投稿費、ネイティブ・スピーカーによる英文チェック(英語論文の場合)への謝礼などに研究費を使いたい。
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