研究課題/領域番号 |
24520738
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
厚谷 和雄 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (80143535)
|
研究分担者 |
末柄 豊 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (70251478)
|
キーワード | 日本史 / 中世史 / 聖教 / 印信 / 血脈 / 密教 / 萩原寺 / 四国 |
研究概要 |
研究の概要:真言密教の附法に際して、師資の間に弟子の修得を証明する目的で発給される文書に印信がある。この師匠より弟子への伝法に際して集積された、密教修学の精髄・成果が聖教である。潅頂に際しては、印信の外に口決や聖教とその目録などが添えられる場合がある。小野・広沢の野沢十二流を根本として、中世以降三十六流あるいは七十余流の諸法流に分化した東密に於いては、その法流ごとに印信や修学を要する聖教に差異が設けられることとなった。本研究は、中世地方寺院に伝来した聖教類として質・量ともに優れた中世聖教群と評価できる萩原寺(香川県観音寺市)所蔵地蔵院聖教を素材として、その本来あるべき所伝の姿への復元のための中世地方寺院所蔵聖教に関する史料学を新たに構築しようとするものである 。本年度における研究の概要は、以下の通りである。 ①萩原寺への出張調査・撮影:平成25年度は年2回の調査を実施し、真恵授受の印信類について精細な原本調査を行うとともに、撮影の前提作業となる室町時代後期までの聖教類についての再整理作業を終了し、室町時代中期聖教の過半のデジタル撮影を完了した。 ②調書データの入力・校正:本年度も継続して、既存調書及び再整理作業に伴う補充調査の成果に基づき寸法・紙質等の入力を行うとともに、真恵授受の印信類についての原本調査の結果をデータベースに反映させ、これを先行科研および本研究によって撮影したデジタル画像による確認作業を行った。 ③目録原稿の作成:聖教類のデジタル撮影と調書データ入力の進捗に併せて室町時代中期聖教の目録原稿を作成した。 ④中世萩原寺聖教の史料学的研究:調書データの中から真恵授受の印信類を抽出し、原本調査の成果とデジタル画像との照合によって、内容・形態(法量・料紙・筆蹟など)を仔細に比較検討し、これを印信データベースに反映させるとともに既刊流布の印信集所載印信類の全文入力を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究費に於ける旅費の割合が増加したが、これは再整理作業及び聖教撮影のより速やかな進捗を目的として、撮影と修補のための人員及び機材を増強し、2台のデジタルカメラを稼働させて、デジタル撮影の進捗を計ったことによるものである。研究の達成状況は、以下の通りである。 ①萩原寺への出張調査・撮影:本年度は各6日間ずつ年2回の調査を実施し、真恵が授受に関わった印信類(200点余)について精細な原本調査を実施し、その過半の調査を終了した。また撮影の前提作業である聖教の再整理作業として、室町時代後期約1200点余の聖教類についての再整理作業を終了し、平安時代より室町時代にいたる同寺所蔵聖教4200余点についての再整理作業を完了することとなった。同寺所蔵聖教のデジタル撮影については、室町時代中期の聖教約900点余の撮影を完了し、これにより本研究が対象とする室町時代までの同寺所蔵聖教4200余点の約70パーセントのデジタル化作業を終了したこととなる。 ②調書データの入力・校正:本年度も継続して、室町時代後期までの既存調書及び再整理作業に伴う補充調査の成果に基づき、寸法・紙質等の入力を行うとともに、真恵が授受に関わった印信類(200点余)についての原本調査の結果をデータベースに反映させ、これを先行科研および本研究によって撮影したデジタル画像による確認作業を行った。 ③目録原稿の作成:聖教類のデジタル撮影と調書データ入力の進捗にあわせて室町時代中期聖教(900点余)の目録原稿を作成した。 ④中世萩原寺聖教の史料学的研究:真恵がその授受に関わった印信類について、原本調査の成果とデジタル画像との照合によって、内容・形態(法量・料紙・筆蹟など)を仔細に解析するとともに、データ入力した既刊流布の印信集所載印信類につい比較検討を加え、真恵授受の法流を確定し、これを真恵の略年譜作成に反映させた。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成26年度も次下に掲げる①~④の事項を確実に実行し、これまでの成果をもとに平成26年度の末には、研究成果報告書を刊行する。そこに盛られる主要な研究成果は、萩原寺所蔵地蔵院聖教の復元と、それにもとづく地方寺院に所在する中世聖教に関する史料学の構築に資する論考・史料の翻刻、そして萩原寺地蔵院聖教目録(鎌倉~室町)となる予定である。 ①萩原寺への出張調査・撮影:平成26年度も各6日間年2回の出張調査・撮影を実施し、安土桃山時代から江戸時代までの聖教類についても年代比定の確認・調書の採取漏れ等の再点検作業を継続して行うとともに、撮影については、平成26年度中に室町時代後期聖教の撮影を完了し、可能であれば安土桃山時代についても聖教類のデジタル撮影に着手する計画である。 ②調書データの入力・校正:平成26年度も引き続き、既存調書及び再整理作業に伴う補充調査の成果に基づき寸法・紙質等の入力を行うとともに、印信類の原本調査結果をデータベースに反映させ、撮影画像による確認・校正作業を行う。 ③目録原稿の作成:①②の進捗にあわせて平成26年度の末には、平安時代から室町時代後期までの目録原稿を完成させる。 ④中世萩原寺聖教の史料学的研究:平成26年度は、調書データから真恵に関わる印信類を抽出し、原本調査の成果と撮影画像との照合によって、内容・形態等を比較検討し、これを印信データベースに反映させるとともに既刊流布の血脈類のデータ入力を行い、印信・血脈データベースを構築する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究の柱の一つであるとともに、研究成果の中心となるものは萩原寺所蔵地蔵院聖教目録(鎌倉~室町)の公刊である。目録原稿は聖教類のデジタル撮影と調書データ入力の進捗に併せて作成しているが、地蔵院聖教の中核となる、室町時代聖教(3500点余)のデジタル撮影のペースを上げることで、目録原稿の作成を始めとして、本研究の促進が計られるものと思考される。萩原寺への出張調査・撮影は、平成25年度はデジタル撮影の一層の進捗を計るため、撮影のための人員及び機材を増強し、各回2台のデジタルカメラを稼働させて、各6日間ずつ年3回、1回あたり7人ないし8人で出張・調査を実施する予定であったが、調査先の都合で2回の実施となった。従って、当初計画では1回であった平成26年度の出張調査・撮影計画を変更し、平成25年度と同様に各6日間ずつ年2回の出張・調査を行うこととし、そのための旅費等に充当することを計画している。 平成26年度の萩原寺への出張調査・撮影は、平成25年度と同様に各6日間ずつ年2回、1回あたり7人ないし8人(原本調査班・撮影班各3・4人+史料修補担当者1人)で5泊6日の出張を実施する。出張調査・撮影に際しては、撮影のための人員及び機材を増強して2台のデジタルカメラを稼働させて、デジタル撮影の進捗を計るとともに、寺外に流出した萩原寺旧蔵聖教(香川・京都等、原本調査担当者2人、)の調査も計画している。
|