研究課題/領域番号 |
24520739
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
本郷 恵子 東京大学, 史料編さん所, 教授 (00195637)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 薩戒記 / 妙槐記 / 山槐記 / 有職故実 |
研究概要 |
本研究は中世において故実・儀礼に関して多くの見識を伝えた中山家・花山院家の関係史料を検討し、写本の状況・相互の継承関係およびそれぞれの時代や個人における興味関心の焦点等を探ろうとするものである。本年度は『薩戒記』を主たる検討課題とし、京都大学附属図書館・京都御所東山御文庫・陽明文庫・西尾市岩瀬文庫・宮内庁書陵部・国立歴史民俗博物館・徳川ミュージアム・前田育徳会尊経閣文庫等が所蔵する写本・逸文・断簡類の探索やテキストの比較および来歴の考察を行った。 『薩戒記』永享五年記の本文テキストについて、2種の江戸期写本、即ち原本の体裁を忠実に筆写した陽明文庫本と、浄書型写本である東山御文庫本を比較し、記主中山定親の筆記の過程と、その意図を探るとともに、東山御文庫本においては書写作業の統括者である中院通村の書き入れに注目することで、同人の中世記録に対する理解の深さや、同文庫における書写事業の質の高さを確認することができた。さらに永享五年記のなかでは、五月・六月記に関して落失や貼継の混乱等が認められること、また東山御文庫本および宮内庁書陵部所蔵日野本に、それぞれ独自に伝えられた紙背文書の書写部分が存在するなど、伝来を考えるうえでの貴重な手がかりを得た。同じく十一月記の冒頭部分について、尊経閣文庫に一紙のみの中世の写本が残るほか、『和長卿記』明応九年(1500)十一月記に後土御門天皇の葬礼に関わる先例としての引用がみられ、いずれも江戸期写本では原本の損傷によって本文が欠けている部分を補う情報を得ることができた。逸文の探索においても、彰考館で作成された『蝉冕魚同』・柳原家旧蔵の『消息案』『蹴鞠部類記』『巌砂記』・菊亭文庫所蔵の『雑々日次記』から記事を抽出することができた。 以上、『薩戒記』の本文探索や伝来検討について収穫を得たほか、中山忠親作の『直物抄』の翻刻を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
史料編纂所に架蔵される中山家・花山院家関係史料については、おおむね全貌を把握したと考える。なかでも『私要抄』として一括される『山槐記』『妙槐記』『薩戒記』からの抄出本のグループについては、抄出書写の事情や書写者である中山定親の意図等に迫ることができた。応永32~33年(1425~1426)の、定親が花山院家から多くの記録の借用を行っていた時期に、叙位・除目や文書の実例等を抄出して先例を知る助けとしたものであろう。並行して同時期に書写された、除目に関する中山忠親の著作『直物抄』に注目し、国立歴史民俗博物館所蔵の田中穣氏旧蔵本を底本として翻刻作業を進めている。すでにひととおりの翻刻が終了し、他本との校合を行っている段階である。 また『薩戒記』書写本のテキストを検討する過程で、江戸期における中世古記録書写の多様な方針や方法、書写を推進する主体の認識のありよう等を知ることができ、写本の精度や伝来の過程について考えるうえで貴重な知見を得た。 そのほか『続史愚抄』を編纂した柳原紀光をはじめとして、史料の収集・書写が盛んに行われていた柳原家に伝来した史料群中の、『消息案』『蹴鞠部類記』『巌砂記』等に『薩戒記』逸文が採録されていることを確認した。それぞれ性格の異なる史料で、『消息案』は書札礼の参考にするための実例集、『蹴鞠部類記』は蹴鞠会についての記録の部類、『巌砂記』は『薩戒記』のほか『明月記』『三長記』等の記録類の断片的な書写で、『砂巌』のような総合的な史料集作成の前提となる素材集のようなものだったかと思われる。 以上、中山家・花山院家に関わる故実書・記録・逸文に関してそれぞれ検討を行ったほか、逸文等が多く収録される柳原家旧蔵写本群の重要性について一定の知見を得た。史料翻刻も進行しており、研究は順調に進展していると認識している。
|
今後の研究の推進方策 |
①中山定親の故実研究に対する姿勢の解明:『達幸故実抄』『直物抄』『妙槐記 宣旨案』等の中山忠親・花山院師継に由来する故実書の編目と、中山定親の『薩戒記』『記中抄出』『宣下消息』等における故実関係の興味関心の焦点を比較することによって、定親による過去の記録の書写や新たな故実書の編集の過程や意図をあきらかにする。 ②柳原家における中山・花山院家関係史料の収集過程の検討:中山家・花山院家関係記録の独自のテキストを多く含む柳原家旧蔵史料群について検討を加える。史料編纂所には、大正年間に謄写・影写を行った『柳原家記録』が架蔵されており、同史料群が本来の所蔵者のもとに置かれていた段階の全貌を知ることができる。現在のおもな所蔵機関である宮内庁書陵部・西尾市岩瀬文庫の書目と比較することによって、個別史料の現状を確認するとともに、柳原家における史料収集・書写の事情に迫ることを試みる。 ③史料の翻刻・本文研究:『直物抄』の翻刻を進めるとともに、『私要抄』のなかで未翻刻になっている『山槐記』『妙槐記』の叙位・女叙位部類の翻刻に着手する。同時にこれらの史料のテキスト分析を進める。 ④中山・花山院家関係史料の写本・逸文の探索:史料所蔵機関において関係史料の閲覧・調査を行い、標記史料のさらなる探索につとめる。本年度は都内所蔵機関が中心となるが、遠隔地では西尾市岩瀬文庫・大阪府立中之島図書館。京都大学附属図書館等を予定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
物品費:100,000 書籍購入等 旅費:350,000 西尾市岩瀬文庫(2泊3日×2人)京都大学附属図書館(2泊3日×2人) 大阪府立中之島図書館(2泊3日×2人)等 人件費・謝金:500,000 学術支援職員 週1日×12か月(史料整理・史料翻刻の補助作業等を担当する) その他:150,000 史料写真焼付購入等
|