本年度は、本研究の主要な題材である中山家関係史料の伝来に関して、以下の3点を論じ、あわせて史料翻刻を完成させて、報告書を作成した。 第一に、中山家の子孫が多く入室した醍醐寺報恩院で、同家伝来の史料のうちから仏事関係史料を書写・編集することが行われていたことをあきらかにし、今日まで伝来する数点の史料について検討を加えた。醍醐寺関係の物故者のほかに中山家のメンバーを加えた過去帳の作成、元和九年(一六二三)の後七日御修法再興にあたって先例を収集・編集した「観応諸卿意見状」、中山定親の晩年にとりかわされた文書集である「宸筆御八講記」等、多様な史料の存在を指摘した。第二に、幕末~近代における中山家所蔵史料やそれらの管理について検討し、さらに同家や当時の貴族社会で、古代~中世に遡るさまざまな史料が、数百年以上の時を超えて、朝政運営上の先例・参考資料として実践的に用いられていたことを示した。第三に、古代~中世史料を書写・研究し、現代に伝えるうえで大きな力のあった国学者の営為に注目した。これまで継続してきた、大阪府立中之島図書館に所蔵される尾張の国学者吉見幸和の書写にかかる古記録の書誌を集成した。さらに彼の蔵書の伝来を考察し、上記の古記録写本群が、明治期に入って吉見家から尾張の豪商神谷永平(永楽屋伝右衛門)に売却され、その後中之島図書館に売却されて今日に至ったことをあきらかにした。 このほかに「私要抄 叙位恒例臨時並女叙位 花内記」の翻刻を完了し、報告書に収録した。
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