日本では18世紀になると、江戸や大坂などの大都市で芸能が都市民衆の生業と本格的に結びつき、いわゆる「芝居町」が成立する。また周辺町々には男色の売春宿も存在し、あらゆる意味で芸能の「商品」化が展開するようになる。こうした都市社会の成熟と教養文化の浸透とが交錯して、18世紀後半には、当時の社会状況を反映した歌舞伎や浄瑠璃の作品が数々生み出されるようになる。これらの「物語」は、芸能者の活動地域の拡大や個人単位の芸能者の存立をもたらし、地域・階層を超えて芸能文化が浸透する要因となった。この「物語」の成立こそ、その後も変容と持続を繰り返す日本文化の「伝統」性の起点である。
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