26年度は、主として仙台市内と国立近代美術館フィルムライブラリーでの調査を行った。仙台での調査先と調査史料は、東北大学史料館所蔵旧制第二高等中学校卒業生・在校生名簿、宮城県立公文書館所蔵旧制宮城中学校卒業生・在校生・入学生名簿、東北学院大学所蔵仙台神学校卒業生・在校生・入学生名簿である。 尚絅学院では尚絅女学校関係資料を調査し、芙蓉が仙台時代に通ったバイブルクラスを担当したミスブゼルと、当時の女性宣教師風俗について考察を深めることができた。明治期の知識人・文化人の教養形成には、学校教育だけでなく、多様な教育の場を想定する必要があることが明らかになった。 フィルムライブラリーでは、映画製作現場での化粧について調査を行った。撮影用化粧に携わったことが芙蓉の西洋映画化粧の研究につながり、新しい芙蓉式化粧の展開をもたらした可能性を見いだした。 これまでの全研究期間を通じて、藤波芙蓉の化粧哲学と化粧法は同時代の英仏化粧書と映画フィルムの影響を強く受けて形成されたこと、さらにここに当時のナショナリズムや芙蓉の啓蒙家的活動要素が加わって、単なる西洋化粧法の技術移転ではなく、近代日本社会のあり方に適合した日本のコスメトロジーが形成されたことが明らかになった。芙蓉の化粧情報は婦人雑誌を中心とする近代メディアを介して広がり、女性達の身体観や衛生意識を化粧という生活文化レベルから変えていくことになる。
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