研究課題/領域番号 |
24520754
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
佐竹 昭 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (00127656)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | たたら製鉄 |
研究概要 |
平成24年度研究実施計画に記した、(1)松江藩領鉄師文書のうち鉄山証文など森林資源の分配・利用に関する史料の調査・収集を行うことについて、計画通り奥出雲町所蔵の卜藏家文書を中心に実施し、慶安2年(写しでは寛永16年)以降の約100通におよぶ鉄山(製鉄用の木炭供給林)・腰林の売買を示す証文類を抽出撮影し、同家が所持した鉄山の18世紀半ばまでの推移を整理した。その結果、芦谷・大畑・赤川・亀石・万歳などの同家主力鉄山は17世紀のうちに買得されており、他の有力鉄師と同じく享保の鉄方法式以前に経営基礎を確立したことが推定されたが、家督分けを繰り返す中で経営の不安定化も想定された。また同家史料のなかに、森林資源の配分を定めた享保11年松江藩鉄方法式の善本を新たに得て、当該段階における鉄師別鉄山・腰林配置の略図も作成した。 同じく、(2)松江藩領の鉄師文書(絲原家文書)によって製鉄に必要な木炭量と所持鉄山面積との対応関係を検討することについて、島根県立図書館所蔵の旧島根県史編纂資料や田部家文書からの情報も新たに加え、まずは明治期にそれぞれの鉄師が稼働させていた鑪・鍛冶屋数と、地租改正によって把握されたそれぞれの鉄山面積とを対比させる作業を行った。その結果、確かに一定の対応関係が認められるが、絲原家の史料による従来の見積もりには再検討が必要なようである。これらの成果の一部はすでに研究発表も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度研究実施計画に記した(1)について、上述のように予定していた卜藏家鉄山証文について調査と収集・整理を行うことができた。またそこに記されている同家所持鉄山の位置や範囲についても、仁多郡の他の4鉄師も含めて享保11年段階の鉄山・腰林配置略図を作成した。同じく(2)についても、鑪・鍛冶屋の稼働と燃料を供給する鉄山との持続可能な対応関係を、まずは明治期の鑪・鍛冶屋の稼働と対応する鉄山面積を把握することで、面積等不明の江戸期へも遡及させる前提を整えることができた。ただ9月後半に研究代表者が約2週間病気で入院したため、鉄山の現地調査にもとづく情報収集はやや不足気味である。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画通り、これまで収集してきた絲原家・櫻井家・田部家の鉄山証文に卜藏家のそれを加え、近世前期の鉄山証文の形式・内容、周辺村民との関係、鉄山集積の推移などの検討を文書中心に行い、かつ現地調査にもとづく情報も取り入れてその総合的考察をめざしたい。なお当初計画では、松江藩領の林野制度と林野利用の特徴を、他地域と対比して把握する意味で26年度には幕領の鉄生産地域や木材生産地域への調査を予定していたが、むしろ自然や社会環境が大きく異なる東北地域における製鉄と林野利用について、比較対照の必要性を感じており、本研究期間内に少なくともその予備的調査を実施したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度の補足として卜藏家所持鉄山をはじめとする仁多郡鉄山の現地調査、また当初計画による田部家を中心とした飯石郡鉄山の現地調査、これらと古文書の補足調査とをあわせて実施する。かつ仙台藩領の製鉄と林野利用についての予備的調査をできれば実施したい。また関係図書のほか、撮影資料のカラー印刷を行うために複合機を購入する。次年度使用予定の研究費はこれらに充当したい。
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