真言密教寺院の恒例臨時修法研究の一環として実施した仁和寺関係史料の調査については、9月に東京大学史料編纂所へ出張し、関係史料群の写真版を閲覧する形で実施した。10月には仁和寺に出張して現地を踏査し、仁和寺霊宝館の展示史料を閲覧すると共に、同寺関係史料の写真版紙焼入手可能範囲について事前相談をおこなった。12月には奈良文化財研究所に出張し、同所の仁和寺関係史料目録をチェックしながら写真帳を閲覧した。同寺関係史料の写真帳紙焼は、多量の場合には仁和寺当局の許可がおりないと判明したため、紙焼申請は一部に留め、残りは東京大学史料編纂所の写真版で可能な限り閲覧してゆく形をとった。同所へは2月と3月にも出張を重ね、史料採訪記録を確認しながら、出張期間に可能な範囲の閲覧を続けた。以上の結果、後七日御修法関係史料の一部について現存最古の写本を発見するなどの成果が得られ、その翻刻紹介に向けて準備を進めている。 同じく真言密教寺院の高野山の史料調査としては、9月末~10月に高野山桜池院にて実施すると共に、高野山霊宝館にて灌頂の法具を閲覧した。また、12月には京都府立総合資料館において随心院文書の写真帳を閲覧した。 いっぽう、恒例臨時修法の実態把握の一環として、上記の高野山出張にあわせて10月1日の高野山結縁灌頂会に臨席し、大阿闍梨・色衆の行道や三昧耶戒の様子を見学すると共に、灌頂の受者を実体験した。これによって史料読解のみでは限界のあった知見を多く獲得できた。 天台宗寺院や東大寺などとの比較研究については、上記9月の東京大学史料編纂所にてあわせて史料調査を実施し、また12月には東大寺図書館に出張して史料調査を実施した。 地方寺院とその法会に関する研究としては、周防国の天台密教寺院氷上山や豊前国の宇佐八幡宮弥勒寺などの研究を進め、論文「周防国氷上山興隆寺の旧境内とその堂舎配置」を執筆公表した。
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