最終年度であり、3年間の総括として、国文学研究資料館との共同研究の成果として、『幕藩政アーカイブスの総合的研究』(思文閣出版、2015年)の「終章」として、「近世における文書行政の高度化と明治維新」をまとめた。概要は次の通りである。近世行政文書の特色の一つは、審議・決済を経た原文書=原議がそのままの形態で綴じ込まれ、簿冊形態をとって保存・管理されているところにある。近代的な原文書綴り込みの簿冊が成立するには、料紙の規格化、継紙形式をとらない、つまり袋折りし綴じ込む形式の料紙による文書の作成、原文書による審議・決裁と、それら原議書の綴じ込みという一連の文書行政・文書管理の高度化が前提となる。そこで藩政文書の中に地方原文書が存在する萩藩・松本藩・熊本藩を対象に原文書綴り込みの簿冊の成立状況について検討し、さらに19世紀の熊本藩において、近代的な原文書綴り込み簿冊にもとづく文書行政・文書管理の高度化が認められることを検証した。そして、以上をふまえて、「近世文書の明治維新」、つまり近代文書行政への歴史的契機として、①太政官制における稟議手順の明文化、②「官用紙」の定型規格化、定型「官用紙」の規定、③継紙との決別、④決裁付紙類の縮減・廃止化、の4点に求めた。19世紀熊本藩の民政簿冊「覚帳」は、すでにこれらの要件を具備し、近世行政文書の一大転換となる明治2年(1869)末の太政官布達で規定された「官用紙」(罫紙)も即座に取り入れられ、そのまま近代的な行政簿冊へと展開している。
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