研究課題/領域番号 |
24520765
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
小林 啓治 京都府立大学, 文学部, 教授 (60221975)
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キーワード | 兵事 / 役場文書 / 軍事援護 / 戦時動員 / 総力戦体制 / 防空 |
研究概要 |
1.木津村役場文書の中の兵事関係文書について、日中戦争以後のもの(1937年~)について、兵事システムを解明する上で重要な史料を選択し、件名目録をつくった。重要なものについては翻刻を行った。ほぼ1941年までの史料について終了した。 2.木津村役場文書の兵事以外の戦時体制構築に関する史料について調査を行った。対象となった簿冊は、日中戦争以後の軍事援護関係のものである。具体的には、出征軍人・遺家族の軍事援護、在郷軍人会、徴用、軍事奉公会の結成と活動、防空体制と警防団などである。これらの簿冊について、件名目録を作成し、重要なものについては翻刻を行った。1941年の簿冊まで作業を終えた。 3.防空演習についての史料が多いことがわかったので、これについては木津村だけに限定せず、全国単位の防空体制の構築についても研究を進めた。防空演習の実態とあわせて防空思想やプロパガンダなどにも視野を広げて調査・研究を行った。殊に1934年の近畿防空演習については、京都府・京都市レベルでの史料もまとまったものがあり、それらの大都市における防空演習と木津村のような遠隔地での防空演習との相違に注意しながら、戦時体制の構築について考察した。 4.経済更生運動についても木津村役場文書の簿冊を調査し、あわせて全国レベルでの研究状況についてトレースした。経済更生運動については、農業社会論的な研究が多く、また事例研究も東北や長野県に関するものが圧倒的に多い。近畿地方の事例研究そのものが重要であり、また戦時体制と関連づけながら解明していく必要があることに思い至った。幸い木津村には経済更生運動に関する簿冊が残されており、また『村報』と付き合わせればこれまでの研究の届かなかった細部にまで分け入ることができることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定よりは少し違った要因を考察しなければならなくなった。その意味では、本年予定したことをすべてこなしたわけではない。しかし、それらは翌年度に先送りしてでも、新たな視点での研究が重要で、計画全体にとって当初の予想を超える成果を出せそうだったので、その方向性も取り入れて研究を進めることにした。 その一つは、防空という要因である。防空については、当初の計画にも多少は入れてあったが、その重要性についての認識が十分でなかった。木津村の最初の防空演習は1934年の近畿防空演習であるが、それ以後の全国的な防空演習や防空思想について基礎的な調査は終えることができた。防空演習は、国民の中に独特の戦争認識を造りだし、総動員体制に予想以上に深いかかわりをもっていることがわかった。 いま一つは、経済更生運動である。当初の計画では、この点については研究の蓄積も多い上、兵事・総動員と関連づけることをあらかじめ断念していた。しかし、村役場文書を調査していくにつれて、この課題が総動員体制構築にあたって外すことはできない問題群を有していることに気付いた。したがって回り道をしているようではあるが、結果的には研究テーマを深めることに繋がっていくはずである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は次の5点に沿って進める。第一に、木津村役場文書の兵事簿冊について、引き続き件名目録をとっていくことである。1942年以降のものが対象となる。同時並行で重要な史料をピックアップし、翻刻を進めていく。 第二に、京都府行政文書以外で京都府が発行した史料を調査する。社会時報が重点的な調査対象になる。あわせて、京都府農会の発行している雑誌(機関誌)について調査を進め、経済更生運動関係のものを抽出する。京都府が経済更生運動をどのように指導していったかが調査の目的である。 第三に、新潟県上越市、滋賀県長浜市などに保存されている兵事史料の調査も引き続き進めていく。兵事史料の残存形態を類型化しつつ、木津村の兵事史料の歴史的意義を考察していく。 第四に、アジア・太平洋戦争後半期の総力戦体制の矛盾と瓦解への動きについて研究を進める。国民義勇隊の結成にいたる村の対応、徴用がもたらした生産力の減退などについて具体的に解明していく予定。 第五に、戦後の復員や終戦直後の村の状況、遺族会の結成について調査を進めていく。研究の後半にあたって、この問題の解明にもっとも重点を置く。
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