研究課題/領域番号 |
24520767
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 宮城学院女子大学 |
研究代表者 |
菊池 勇夫 宮城学院女子大学, 学芸学部, 教授 (20186191)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 天保の飢饉 / 非常態 / 飢饉救済 / 仙台藩 / 八戸藩 / 年代記 / 人数改帳 / 稗三合一揆 |
研究概要 |
近世の東北地方でどのような災害が発生していたのか知るために、仙台藩石巻地方を事例に、真野村肝入加納三左衛門が執筆した『年代記』、同村長谷寺年代記などを用いて災害年表を作成し、災害状況および飢饉の非常態をまとめた。その概要レジュメは在仙大学による「復興大学」、あるいは市民講座等の講義において配布し活用した。八戸藩についても概括的な災害年表を作成した。 天保の飢饉の研究としては、北奥八戸藩(本高二万石・内高四万石余)の場合を、飢人救済をめぐる公権力と地域社会という関係性を重視して考察した。天保の飢饉はとりわけ天保四年(一八三三)、同七年、同九年の三度の大凶作年があり、長きにわたって列島社会に強いストレスを与えたが、ダメージの現れ方は地域によって一様ではない。八戸藩では天保五年一月に稗三合一揆が起こり、同九・十年に最悪の飢饉状態となったといえるが、飢人救済のあり方はその間にも大きく変容していたことを、藩社会の実情と飢饉のプロセスに即して子細な解明を行い、学会で発表した。また、現一関市内の仙台藩西磐井小猪岡村の天保期の「人数改帳」などの飢饉関係史料の一部解読と分析を行った。 上述の本年度の具体的な考察とかかわって、八戸藩、仙台藩の飢饉関係史料を八戸市立図書館、一関市博物館で収集したほか、秋田、弘前、盛岡、東京に出張し、図書館等で史料・文献の収集を実施した。また、勤務校の図書館に所在しない、既刊の東北地方(とくに青森県、秋田県)の市町村史(誌)類の購入を進めた。 なお、実質的には本助成の開始以前の成果ではあるが、今年度に本研究に直接つながる著書・論文等を刊行することができたことも付記しておく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はおよそ六つの課題を設けて取り組むことを計画してスタートした。そのうち、(1)近世を通じて東北地方でどのような災害が起きていたのか、凶作・飢饉に限らずに全般的な傾向を把握するための作業としては、仙台藩石巻地方、および八戸藩の災害年表を作成することができた。弘前藩など他地域についても作成のための準備が整っており、予定通りに進んでいる。 (2)自治体史等を使った天保の飢饉の各地域の史料の残存状況、および被災状況の概要であるが、2012年度はその具体的な作業に必要な図書類の確認・収集(購入・複写)に努めた。さらに収集を進めなくてはならないが、具体的な作業の基盤がある程度できたといえよう。(3)飢饉の非常態についての、人別帳などを用いた単に数量的でない個々の家・人の事情を明らかにする作業では、一関市の小猪岡・山谷本寺地域の天保期の人別帳のデータ化、分析を進めた。 他の課題は主として2年目からの取り組みの当初計画であるが、2012年度は上記以外にも、課題(4)と関わって、天保の飢饉の地域社会での現われ方を、八戸藩を通して飢人救済をめぐる藩と村(共同体)と豪農商との相互・対抗関係を意識しながら詳細に考察することができた。そのなかで、天保5年の八戸藩稗三合一揆の位置づけをあらためて考える機会となった。研究計画としてあげたテーマの範囲を超えた、さまざまの広がりをもった総合的な飢饉研究をめざしてきたといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度以降は、前年度の達成を踏まえながら、研究目的にあげた諸課題に本格的に取り組んでいくことになる。とくに、2013年度は、以下に列挙する具体的な作業を実施していきたいと考えている ①自治体史類の収集(購入または複写)をさらに行い、天保の飢饉史料の残存状況、および地域ごとの被災状況の把握の作業を進めていく。②仙台藩、八戸藩に続いて弘前藩、あるいは秋田藩の災害年表を作成する。③飢饉時の米価変動の推移をいくつかの地域(八戸、仙台、弘前、江戸など)を取り上げ、比較・検討の作業を行う。これによって地域間の価格差、米価と飢饉の非常態との連動性、といった問題などを検証してみたい。④2012年度の八戸藩の稗三合一揆の検討をふまえて、秋田藩で発生した天保5年の北浦一揆の要因および背景を天保の飢饉との関わりで解明する。また、天明の飢饉について、弘前藩青森町で発生した米騒動を飢饉全体のプロセスのなかに位置づけて考察する。⑤飢饉の非常態については、天明飢饉時の八戸藩の飢饉状況を伝える「恵比須屋善六の手紙」の考証など行う。⑥飢饉体験がどのようにその後に生かされていくのか、考えていく一つの作業として、八戸藩の農書「軽邑耕作鈔」を取り上げ、地域の農業経営、または農業技術の特徴を明らかにする。 2012年度の達成を含め、これらの作業のうちから研究論文として、1~2本は公表したい。また、公開講座などにおいて成果をそのつど生かしていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
助成費(100万円)のうち主要な経費である物品費(52万円)はその多くが自治体史等の購入費用で、他にパソコン、カメラ、プリンターの消耗品代を予定している。旅費(25万円)は東北各県の県立図書館、あるいは八戸、弘前などの主要都市の市立図書館、および東京の史料所蔵機関などにおける史料・文献収集のために使う。人件費・謝金(15万円)は史料・文献などの複写作業、あるいはデータのパソコン入力等のアルバイト代である。その他(8万円)は文献複写代がほとんどである。2012年度から繰り越した金額(20万円弱)は主としてアルバイトを使わなかったためであるが、この分は物品費に加算し、主に不足気味の自治体史等の購入に充てることとしたい。
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