本研究は、貴族院議員の政治活動を、その活動の背景となった「政治的基盤」と関連づけて検討しようとするものである。 本研究では、国内各所で史料調査を行い、収集史料とデータを整理し、貴族院議員の政治基盤の分析を進めた。その結果、「第一三帝国議会貴族院諮詢の「華族令」改正問題について」を発表し、華族議員の政治的な基盤となる「華族観」について考察した。また、貴族院の勅選議員を中心とする会派「幸倶楽部」に関し『幸倶楽部沿革日誌』を刊行し、幸倶楽部が権力制限の観点から「立憲主義」を解釈する考えに立っていることなどを指摘、さらに「花房家所蔵『花房崎太郎関係文書』目録並びに解題」により、幸倶楽部の内部対立と大正期貴族院内会派の再編へと進む背景を明らかにした。また、河井弥八の史料などを用いた「貴族院内議員席次・控室変更問題と会派」で、貴族院の議席変更論議を検討し、異なった基盤を有する貴族院議員が、貴族院の意義をそれぞれ如何に認識していたかを示した。 昭和期の貴族院では「天皇機関説排撃問題と貴族院」により、排撃問題での貴族院内会派の動向を検討、少数の排撃強硬派と大多数の穏健派の論議を明らかにし、貴族院議員の主張に各自の政治的な基盤(所属団体など)が影響していること、建議案可決は、議会政治否認に至る奔流を沈静化し政治的に貴族院の存在を守る意識があったことなどを指摘した。また『国民主義の時代』を刊行して、貴族院議員がその政治基盤を背景に他の政治勢力と連携する側面を検討した。 最終年度においては、「貴族院会派「研究会」の初期会則・規則について」で、貴族院の会派研究会の設立当初の政治的な特徴を明らかにし、多額納税者議員の政治基盤として選出県の利害にある事を示唆した。又、「貴族院の華族と勅任議員」により明治期の貴族院の政治会派の実態を明らかにした。さらに「鎌田勝太郎関係文書」の目録刊行の準備を進めた。
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